令和8年9月の長崎県議会では、五島、上五島、宇久、小値賀、対馬、壱岐の暮らしに関わるさまざまな課題が議論されました。
有人国境離島法に基づく支援の拡充に期待が集まる一方、船員不足、航空機の不具合、医療・介護人材の不足など、島で生活を続けるための基盤をどう維持するかが問われています。
本記事では、離島の市町議会議員が把握しておきたい議論を、答弁で確認された現状、今後の予定・検討事項、市町村側で確認すべき論点に分けて整理します。宇久については、佐世保市の対応に関わる事項を含みます。
この記事の位置づけ
中西大輔ブログに掲載した、令和8年9月11日・14日・15日の長崎県議会一般質問の議事メモに基づく整理です。日付は記事投稿日ではなく、本文記載の質問日です。議事メモは音声を文字起こし・整理したもので、正式な会議録ではありません。数値や発言内容は、必要に応じて正式な会議録・県の公表資料でご確認ください。また、「実施済み」「予定」「検討中」は答弁時点の状況です。
1.国境離島支援は「法律の延長」と「支援内容の決定」を分けて理解する
9月14日の清川久義議員の質問では、有人国境離島法の期限が10年間延長されたことが説明されました。一方、帰省客への運賃支援については、具体的な対象者や割引内容、開始時期が決まったという答弁ではありません。
9月11日の近藤智昭議員の質問では、令和9年度概算要求について、国境離島交付金85億円と先駆的技術の社会実装に関する10億円を合わせ、総額95億円が要求されていると説明されています。
これは成立した予算額ではなく、95億円全額が航空運賃の補助に充てられるわけでもありません。
市町村側で確認すべきこと
- 帰省客支援が実現する場合の対象者、対象路線、本人確認方法、開始時期。
- 新たな支援に伴う市町村負担や事務負担。
- 雇用支援などの拡充内容と、既存事業者が活用できる範囲。
- 技術実証を行う場合の運営主体と、実証終了後の維持費。
住民への説明では、法律の延長、国の概算要求、個別制度の正式決定を区別する必要があります。
出典:令和8年9月14日・清川久義議員の質問・答弁/9月11日・近藤智昭議員の質問・答弁
2.航空・航路は、運賃に加えて「利用できる便の確保」が課題
9月14日の畑島晃貴議員の質問では、ORCの機材不具合による欠航と、壱岐・対馬航路のジェットフォイルの減便が取り上げられました。
| 論点 | 答弁で確認された現状 | 未確定・今後の課題 |
|---|---|---|
| ORCの欠航 | 機材不具合や国外からの部品調達に課題があり、予備部品の確保などを進めている。 | 安定運航を回復する具体的な期限は示されていない。 |
| 壱岐・対馬航路 | ジェットフォイルは船員不足による減便が継続している。 | 必要な船員の確保と、通常運航への復帰時期。 |
市町村側で確認すべきこと
欠航や減便の影響を、通院、通学、仕事、観光、物流に分けて把握する必要があります。追加の宿泊費、予約取消し、配送の遅延などを集計すれば、県や事業者に求める対応を具体化できます。
船舶や航空機の確保とともに、運航に必要な人員や整備体制が維持できるかを確認する視点が重要です。
出典:令和8年9月14日・畑島晃貴議員の質問・答弁
3.救急搬送は、空港設備から受入病院まで一体で点検する
9月11日の近藤智昭議員、山田朋子議員の質問では、ドクターヘリの運航拡大と、離島の夜間救急搬送が議論されました。
| 対象 | 答弁時点の状況 |
|---|---|
| 2機目のドクターヘリ | 7月から運航を開始。10月中旬から週2回、11月から週3回へ拡大する予定。 |
| 上五島空港 | 可搬型照明を使うことで、自衛隊による夜間の救急搬送への対応が可能になった。 |
| 小値賀空港 | 新上五島町の照明整備後、県の可搬型照明を移設し、確認訓練などを進める予定。運用開始済みではない。 |
| 宇久からの船舶搬送 | 協力する船舶事業者の高齢化・後継者不足が課題。 |
| 防災ヘリ | 24時間運航は困難と説明。勤務時間内の要請に対する日没後の運航を検討中。 |
市町村側で確認すべきこと
照明が整えば、搬送の課題がすべて解決するわけではありません。患者の島内移動、船舶と乗組員の確保、空港への移動、ヘリの出動、受入病院まで、搬送経路全体の役割分担を確認する必要があります。
宇久・小値賀では、船を使う場合の荒天時の代替策、待機体制、費用分担も重要です。各島について「誰が、どの条件で、どこまで対応できるか」を整理することが求められます。
出典:令和8年9月11日・近藤智昭議員の質問・答弁/同日・山田朋子議員の質問・答弁
4.医療・介護・看護教育は、人材の確保と定着が鍵
オンライン診療については、対馬市の一重へき地診療所で令和8年4月から本格運用が始まり、今後は五島市の二次離島で体制構築を支援する方針が示されました。
介護人材の確保では、上五島で施設見学や介護体験などを組み合わせた取組が、実際の移住・就労につながった事例が紹介されています。
出典:令和8年9月11日・近藤智昭議員の質問・答弁
一方、五島高校衛生看護科への専攻科創設については、実習の受入れ体制や教員確保などの課題から、県は現時点で設置は困難と回答しました。今後の協議方針は示されていますが、設置決定ではありません。
出典:令和8年9月14日・清川久義議員の質問・答弁
上対馬病院については、建て替えの検討と併せ、将来の地域医療について住民との対話が行われたことが報告されています。
出典:令和8年9月14日・畑島晃貴議員の質問・答弁
市町村側で確認すべきこと
- オンライン診療の対象島、開始時期、患者を支援する現地スタッフ、薬の受渡し方法。
- 対面診療が必要になった場合の対応と、既存の診療体制との役割分担。
- 看護教育に必要な実習受入れ人数、教員数、運営費。
- 介護人材の採用後の住宅確保、生活支援、定着状況。
- 病院再編・建て替えにおける診療機能、交通手段、住民説明の進め方。
5.水産業は、支援制度と漁獲規制の両方を確認する
水産業のコスト削減を支援する事業については、10月に追加公募を予定しているとの答弁がありました。市町村や漁協には、対象となり得る事業者への早めの情報提供が求められます。
資源管理では、ブリの本格的な漁獲管理への対応と、クロマグロの国際的な漁獲枠の見直しが議論されました。特にクロマグロは、大型魚の増枠方向と、小型魚の削減方向を分けて把握する必要があります。国際的な最終決定や国内配分が済んだという説明ではありません。
出典:令和8年9月11日・近藤智昭議員の質問・答弁/9月14日・清川久義議員の質問・答弁
また、対馬沖の漁業調整について、県は島外漁業者の入漁を資源保護目的で一律に規制する枠組みはないと説明しました。
漁業と観光を組み合わせる「海業」では、壱岐・勝本の遊覧船、上五島・奈良尾のヨット受入れなどが紹介され、体制づくりや商品化、情報発信への支援が説明されています。
出典:令和8年9月14日・畑島晃貴議員の質問・答弁
市町村側で確認すべきこと
魚種別・漁法別に、漁獲枠の変更が操業や所得へ与える影響を整理することが必要です。また、海業を進める場合は、漁業者への収益還元、操業との調整、安全管理、継続的な運営主体を具体化することが重要です。
6.港湾・空港・大型開発は、決定前の協議内容を確認する
福江港の特定利用港湾
福江港については、県が五島市の意見を聴き、国に詳細を確認している段階です。県は12月を目途に考え方を回答し、その後に国が判断する予定と説明しています。指定が決定したという答弁ではありません。
港・空港の駐車場
福江空港、対馬空港、厳原港、郷ノ浦港では、長期駐車などによる支障が把握されています。福江空港については民間委託を含む管理体制の見直しを検討していますが、全面有料化が決まったわけではありません。
出典:令和8年9月14日・清川久義議員の質問・答弁
宇久島のメガソーラー
県は、林地開発について災害防止、水害防止、水の確保、環境保全の観点から審査し、防災施設などを事業者と協議していると説明しました。宮本議員による事業推進の要望と、県による許可・安全性の判断は分けて受け止める必要があります。
出典:令和8年9月15日・宮本法広議員の質問・答弁
市町村側で確認すべきこと
- 福江港について、市の意見、民間航路との利用調整、整備内容、住民説明。
- 駐車場について、通院などで長期間利用する住民への配慮と、管理費・料金の考え方。
- 宇久メガソーラーについて、排水、地下水、土砂流出、施設の維持管理と審査内容。
7.地域別に優先して確認したい事項
以下は、今回の答弁を踏まえた市町村側への提案です。
| 地域 | 優先して確認したい事項 |
|---|---|
| 五島 | 二次離島のオンライン診療、ORC欠航の影響、福江港に対する市の意見、看護人材育成の条件。 |
| 上五島 | 空港照明の整備時期、夜間搬送体制、介護人材の定着、水産支援と海業の活用。 |
| 宇久 | 夜間の船舶搬送の継続性、荒天時の代替策、メガソーラーの防災・水環境に関する審査。 |
| 小値賀 | 照明移設から確認訓練・運用開始までの日程、宇久を含む搬送の役割・費用分担。 |
| 対馬 | 航空・航路の安定運航、上対馬病院の将来像、オンライン診療の評価、漁業調整。 |
| 壱岐 | ジェットフォイルの復便見通し、通院への影響、郷ノ浦港の駐車場対策、海業の効果。 |
まとめ・今後の見通し―令和9年度予算と運営体制の具体化が分岐点
今回の議論から、今後の焦点は、支援拡充の方針が実際の予算・制度となるか、そして、その制度を地域で動かす人材と運営費を確保できるかにあると考えます。
離島選出の議員には、県の答弁を市町村の課題に引き寄せ、「いつ実施するのか」「誰が担うのか」「いくら必要なのか」「実施できない条件は何か」を具体的に確認する役割があります。
令和9年度の予算編成に向けて、欠航・減便による負担、救急搬送の課題、人材不足、漁業経営への影響などを地域ごとに整理し、県への要望と市町村自身の対応に結びつけることが重要です。
