五島市議会の交通網整備対策特別委員会では、福江空港発着便で相次いでいる欠航について、直近の欠航率や原因、今後の改善策について質疑を行いました。2026年8月7日 13:00−14:20
委員会には、オリエンタルエアブリッジ株式会社(ORC)から常務取締役、整備担当取締役、経営企画部長らが出席。五島市から福江空港の利用状況について説明を受けた後、ORCからATR機で発生している具体的な不具合や欠航の原因について説明があり、委員との質疑が行われました。
福江空港の福岡線は増加、長崎線は減少傾向
五島市からは、福江空港発着路線の利用状況について説明がありました。
- 福江-福岡線:令和7年度利用者数 122,338人(前年度比588人増)
- 福江-長崎線:令和7年度利用者数 49,358人(前年度比5,933人減)
福岡線は利用者が増加傾向にある一方、長崎線については減少傾向が続いていることが報告されました。
一方、運航状況を見ると、福江空港発着便全体の就航率は、令和6年度が92.1%、令和7年度が92.6%だったのに対し、令和8年度は4月から7月までで87.2%まで低下しています。
特に7月は機材故障による欠航が相次ぎ、天候による欠航も重なったことで、島民生活や観光、出張などに大きな影響が生じました。
ORC「ATR機の品質が安定していない」
ORCからは、現在使用しているATR機の運航状況について詳細な説明がありました。
ORCは2022年、2023年に導入した比較的新しいATR機2機を運航していますが、予備機を持たず、基本的に2機をフル活用する運航体制となっています。
2025年実績では、1機当たり1日平均約8回飛行する一方、平均飛行時間は1日約3.27時間、1回当たりでは約24.5分となっており、「短い区間を高い頻度で飛行する」ことがORCの運航上の特徴です。
また、2機とも運航ダイヤにほとんど余裕がないため、1機に不具合が発生すると、その後の複数の往復便まで連続して欠航するという構造的な問題も説明されました。
ORCのATR機全体の就航率は、2025年度が90.1%だったのに対し、2026年度は7月末時点で84.9%まで低下しています。
機材理由による欠航率についても、2026年4月は8.7%、5月は0%まで改善したものの、7月には18.9%に上昇しました。
4月から7月に相次いだ機材トラブル
ORCからは、実際に発生した不具合について一件ずつ説明がありました。
離陸滑走中の異常による離陸中止
4月には、長崎空港で離陸滑走中に機体が右方向を向く異常が発生し、乗員が離陸を中止する事象が発生しました。
エンジン関係の管理装置や調整器の交換が必要となり、翌日まで含めて合計16便が欠航しました。
部品の取り違えで復旧に時間
燃料系統のバルブが開かない不具合では、整備士が配置されていない空港だったため、長崎から整備士を派遣する必要がありました。
さらに、メーカーのマニュアルの記載が分かりにくかったことなどから、他社から融通された部品が左右逆の部品だったことが判明。改めて部品を調達することとなり、欠航が拡大しました。
エンジンが始動しないトラブル
6月25日には長崎空港で右エンジンが始動しない不具合が発生しました。
原因の特定に時間を要し、大型部品を他社から融通してもらうとともに、その他の部品についても世界各地から調達。7月2日に運航を再開するまで、長期間にわたり影響が続きました。
シンガポールやフランスから部品を調達
7月には油圧系統の漏れ、ブレーキ関係、エンジンの空気系統など複数の不具合が相次ぎました。
国内に交換部品がなく、シンガポールやフランスから部品を取り寄せなければならないケースも発生しています。
7月17日、18日にはATR機2機が同時に使用できなくなり、全便欠航となる深刻な状況も発生しました。
「ORCの使い方ではなくATR側の問題ではないか」
委員会では、相次ぐ不具合について、航空会社の運用方法に原因があるのか、それとも機体そのものの設計やメーカー側の品質に問題があるのかについて質問がありました。
ORC側は、鹿児島を拠点とする日本エアコミューター(JAC)や天草エアライン、北海道エアシステムなど、ATRを使用する他の地域航空会社とも情報共有していると説明。
その上で、ORCだけに不具合が集中しているわけではなく、他社も同様の課題を抱えていることから、ORCとして「ATR側に大きな問題があると考えている」との認識が示されました。
一方で、ORCは2機保有しているATR機を2機とも運航に使用しており、予備機がないため、一度不具合が発生した際の欠航便数が他社より大きくなりやすいことも説明されました。
メーカー側の責任についても質疑
委員からは、導入後数年しか経過していない比較的新しい航空機でこれほど多数の不具合が発生していることについて、メーカー側の責任をより厳しく問う必要があるのではないかとの指摘がありました。
製造物責任の考え方にも触れながら、「あまりにも機体の不具合が多い場合、メーカーに対して保証を求めるような問題にならないのか」との質問もありました。
これに対してORC側は、現時点で具体的な保証・補償の話に至っているとの認識はないとしながらも、国土交通省航空局もATRの機材品質について問題視しており、ORCなど航空会社とともにATR側へ品質やサポート体制の改善を求める協議を始めていると説明しました。
ATRメーカーに対し、地域航空会社が共同で改善要求
ORCによると、地域航空会社だけではメーカーに対する交渉力が弱いため、JAC、天草エアライン、ORCなどの地域航空会社に加え、ANAやJALも含めた枠組みでATR側に改善を求めています。
主な要望事項として、次のような内容が示されました。
- 航空機そのものの品質向上
- 交換部品を迅速かつ確実に供給する体制
- 納品部品に必要な書類の不備をなくすこと
- 整備マニュアルをより明確にすること
- 航空会社に対するメーカーの技術サポート体制の強化
ORC側からは、ATRのサポート体制について、他メーカーと比較して十分ではないとの認識も示されました。
部品在庫に約1億円規模の追加投資
欠航を減らすため、ORCでは交換部品の在庫拡充も進めています。
航空機導入時には、メーカーが推奨する予備部品をあらかじめ購入していたものの、実際に運航を始めると、それだけでは不足することが判明しました。
そのため、昨年度にはメーカーの推奨リストには含まれていなかった部品についても、約1億円規模の追加投資を行い、予備部品を確保したと説明しました。
また、一度発生した不具合については、同様のトラブルが再び発生することを想定し、原則として交換部品を追加購入する対応を進めています。
実際に、過去の不具合を受けて購入していた部品によって欠航を回避できたケースもあるとのことです。
整備士がいない空港への対応も課題
委員会で明らかになった大きな課題の一つが、福江や対馬など、常時整備士が配置されていない空港で不具合が起きた際の対応です。
現在のルールでは、不具合の内容によっては整備士が現地まで移動しなければ運航再開や修理の持ち越し判断ができません。
そのため、整備士を長崎から派遣するまでの時間や、整備士が移動する便自体が天候不良で欠航することで、さらに欠航が長引いた事例もありました。
ORCでは今後、運航乗務員やグランドハンドリング担当者、iPadなどを利用した遠隔映像確認などを組み合わせ、整備士が常駐していない空港でも一定の判断ができる仕組みについて、業界全体で検討を進めているとしています。
欠航理由の表示にも改善を求める声
委員からは、利用者に表示される欠航理由が「機材故障」「機材繰り」など簡単な内容にとどまり、実際に何が起きたのか分からないことも不信感につながっているのではないかとの指摘がありました。
ORCによると、欠航理由については航空業界で使用する共通コードやANAのシステムに基づいて表示されており、最初の便は「機材故障」、その影響を受けた後続便は「機材繰り」と表示される仕組みになっています。
そのため、ORC単独で詳細な欠航理由を表示するにはシステム上の課題があるとしながらも、委員からは、利用者の理解を得るため可能な範囲で丁寧な情報発信を行うよう求める意見が出されました。
欠航時の返金・補償処理にも約1か月半
欠航が多発したことで、返金・補償対応にも遅れが生じていることが明らかになりました。
ORCによると、ウェブ上で補償申請を受け付けているものの、欠航件数の増加により申請が集中し、委員会開催時点では6月中旬ごろに申請された案件を処理している状況でした。
最も時間がかかっている時期では、申請から処理まで約1か月半を要しているとの説明がありました。
委員からは、欠航そのものに加えて返金まで長期間かかれば、観光客にとって五島全体の印象悪化にもつながりかねないとして、迅速な対応を求める意見が出されました。
ORC側は、通常とは異なる社内体制を組み、人員を集中させて対応していると説明しました。
「天候による欠航は仕方がない。しかし機材故障がこれだけ続くと厳しい」
委員からは、実際に7月中に複数回欠航に遭遇し、長崎から高速バスや新幹線を利用して福岡へ向かわざるを得なかった経験も紹介されました。
特に、搭乗手続きを終え保安検査場内に入った後、出発直前に機材整備を理由に欠航となったケースでは、関東や関西から訪れていた観光客が代替交通手段の確保に苦慮していた状況も報告されました。
委員からは、「天候不良による欠航は利用者も一定程度理解できるが、これだけ機材故障による欠航が続けば、何とかしてほしいという声になる」として、安定運航を強く求める意見が出されました。
整備経験の蓄積で復旧時間は短縮できる
ATRという新しい機種に対するORCの整備経験が十分に蓄積されていないことも議論になりました。
ORC側は、一度経験した不具合であれば原因特定や部品交換が早くなるため、整備士の経験蓄積は欠航時間の短縮に大きな効果があると説明しました。
今後、同種のトラブルに対するノウハウが蓄積されれば、修理に必要な時間を短縮し、後続便まで長期間欠航するケースを減らせる可能性があるとしています。
長崎線の利用減少にも「欠航への不安」が影響か
委員からは、福江-長崎線の利用者が減少している背景についても指摘がありました。
航空機が欠航する可能性を考え、「予定どおり移動できないリスクを避けるため、最初から飛行機を選択しない利用者がいるのではないか」との意見です。
航空路線の利用者を回復させるためにも、単に便を運航するだけでなく、「予定どおり飛ぶ」という信頼を取り戻すことが必要との指摘がありました。
安全運航に加えて「安定運航」の実現を
今回の委員会では、ORCが安全確保を最優先として整備を行っていることを前提とした上で、島民生活や観光、ビジネスを支える交通インフラとして、安定した運航を求める意見が相次ぎました。
ORCでは今後、
- 過去の不具合情報や整備ノウハウの蓄積
- 予備部品のさらなる確保
- 他の航空会社との部品融通
- 重整備時の予防的な部品交換
- 軽微な不具合を安全に持ち越せる仕組みの拡充
- 整備士がいない空港での遠隔対応体制の構築
- 他の地域航空会社や国土交通省と連携したATRメーカーへの品質改善要求
などを進める方針です。
離島である五島市にとって航空路線は、単なる移動手段ではなく、市民生活、医療、観光、企業活動などを支える重要な交通インフラです。
委員会では最後に、「安全運航が第一であることは当然として、その上で安定運航を実現してほしい」とORC側に要望し、今回の委員会を終えました。

