人口減少対策に成功している自治体ってあるの?
成功すると、どんな良い事があるの?
五島市の事例を参考に、こういった疑問に答えます。
この記事を読むと、人口減少対策が成功した場合のメリット・デメリットが分かります。
(そもそも)人口減少とは?
- 自然減:生まれる人と亡くなる人の差
- 社会減:転入する人と転出する人の差
本日紹介する五島市は、「社会減」が初めて「社会増」に転じたとして、注目を浴びました。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/goto_jp_5e527c93c5b629695f5bd65d
以下、五島市の取り組みを詳しく解説し、人口減少対策が成功した場合のメリット・デメリットを紹介します。
五島市の最重要課題
五島市は、最重要課題として、人口減少対策に力を注いでいます。
H30.6月の議会で市長が述べた「人口減少対策5つの柱」は
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国境離島新法を活用した支援事業
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世界遺産登録推進事業や体験型民泊事業など観光の振興を図り、観光資源を活用した起業・創業により移住・定住
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UIターン促進事業
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浮体式洋上風力発電ウインドファーム事業
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日本語学校の開設準備作業
です。中には「それってどうなの?」という点もありますが、こうした様々な移住者支援の成果のおかげか、UIターンを始めとする年々移住者の数は増えています(2019年は202名移住)。
しかし、人口全体で見ればマイナスの傾向(社会減+自然減)が続いているため、今後は日本国と同様、人口は減っていきます。
日本の地方はどこも「人材の奪い合い」みたいな状況になっているので、ゼロサムで全体を見れば、
五島市の人口が増える=他の自治体の人口が減る
という事を意味します。
成功するメリット
住民目線では、人が増えると、地域に活力が維持され、学校や病院の維持が期待されます。
経済的な面では、お店や施設が増えるので、社会の中で動く血液の量が増える状態となります。
五島ではしばしば「働く場所がない」と言われます。正確に言えば、どこも人手不足なので、働く場所はあります。
ただ、都会のような賃金水準や労働環境を求めると、話は別です。本日も地元の高校生とお話しましたが、
卒業したら島を出たい。
という意見が殆どでした。
実際、五島では「良い職場がないから」という理由で、高校生の8割が卒業と同時に島を離れます。親御さんも、
ずっと五島にいても・・・
という方が多いです。私はそれ自体、悪い事ではないと思います。
一方の行政サイドは、市長の号令の下、「良質な雇用の場の創出」を訴えていて、企業の誘致や起業の促進を行っています。
ただ、これからの時代の変化(AIの普及と終身雇用の崩壊)を考えれば、従来の1次産業・2次産業であった
「収入源が場所に限定される仕事(工場や農家など)」
の数は減少し、PCとネット環境さえあれば完結する仕事が増えていきます。
その実証実験として、現在はリモートワークが五島で行われています。
成功するデメリット
逆に、人口が増える事のデメリットです。まずは環境面から。
①環境が汚染・破壊される
かつて五島の福江島には9万人近い人が住んでいたそうですが、昔の生活と今の生活は、環境に与える負荷がけた違いに異なります。
コンビニやスーパーがすっかり普及した五島市(福江島の中心部が主)では、都会とさほど変わらない利便性があります。その分、ビニール袋やプラスチック製品も多用されるため、
市民1人が環境に与えるダメージ
は昔と比べ物になりません。本日もバリューの朝市(300人くらい来場)に行きましたが、ほぼ例外なく市民の方はビニール袋に商品を入れて帰ります。
これらの総量は非常に多いため、排出されるゴミも増えます。
そして私は、散歩やランニングの途中にゴミを拾っているのですが、このゴミの量も毎日両手で抱えきれないくらいになります。
おそらく、現在の便利な暮らしを続け、人口が増えた場合、新しいゴミ焼却場(この点については後日記載)の処理能力を超えてしまう気がします。
②社会保障の負担が増える
現在の社会保障制度は、いわゆる「人口ピラミッドが山の形」の時に作られた制度です。つまり、
多くの若者が少ない高齢者を支える
事を前提にして作られた制度です。ところが現在は、この人口構成が大きくゆがみ、
少ない若者が多くの高齢者を支える
かなりシンドイ制度になってしまっています。
幸いにして五島市は、移住者の中でも若い世代の割合が多いそうです。H30.9月の市議会・木口議員によると、五島への移住者は
40歳代までの移住者が8割余り
だそうです。逆に高齢者の方は、介護や医療の事情によって、転入よりも転出が増えていると聞きます。
ただ、表向きは高齢者と若者を区別して移住政策を推進している訳ではないので、移住してくる高齢者が増えると、
五島市が負担する社会保障の費用が増える
という結果を招きます。実際、H31年度の予算状況を見ても、
子供や高齢者、障がい者福祉などの経費として計上される「民生費」の総額が82.6億円となっていて、歳出全体(343.5億)の24%(最も多い割合)を占めています。
仮にこれから、高齢の移住者が増えた場合、
歳出に対する民生費割合(社会保障)の増加
を招きます。それは財政構造が貧弱な五島市にとって、非常に大きな問題となります。
さらに子育て世帯の増加も、社会保障費用の増加(教育の無償化や子供の診療手当など)を招きます。
五島で育った子供たちが、五島に税金を納めてくれれば良いのですが、残念なことに、五島で育った子供は島外に出ていく、という構造になっています。
企業経営的に考えれば、「投資はしたけど回収できない」という状態です。その分、地方交付税の支給という形で還流は起きているため、何とか今のところは帳尻合わせが出来ている状態です。
➂住民満足度の低下
人口が増えた場合、住民目線で考えると
- 交通量が多くなり、道路渋滞、交通事故が発生する
- 人が多くなり、犯罪や事件の確率が増える
という面もあります。実際、五島の市街地より外側に住む人の話を伺っていると、
静かな場所だから気に入っている
という声を多く耳にします。そういう感じで
「自然と共に過ごす静かな暮らし」
を望む人にとっては、人口が増えてやかましくなることは、望ましくないとも考えられます。
私の出身地である千葉県船橋市も、最近はマンションが増えすぎているため、車を運転したいとは思えません。
さらに、仕事でインドに行った時や、旅行でスリランカに行ったときは、
人口が増えすぎると、基本的にロクな事がない
と思いました。海外に行くとよく分かるのですが、
- 車のクラクションがやたらとうるさい
- スリや泥棒に合う危険性が高い
- 自然と触れ合う機会が乏しい
という部分が多いです。
メリット・デメリットのまとめ
人口減少対策により、地域に人口が増えるメリットとしては、
- 島が活性化したように感じる
- 税収が増える
- 社会資本が維持される
という点が挙げられる一方で、デメリットとしては
- 自然環境や景観の悪化
- 社会保障費の増加に伴う地域の財政の悪化
- 住民満足度の低下
という部分が挙げられます。
「新しい社会」のデザイン
社会や経済は、常に変化しています。
戦後の日本社会は基本的に、経済成長&大量消費社会でした。
ところが、相次ぐ自然災害や人災・経済危機を経て、そのモデルは大きな変更を迫られています。
これからの時代のキーワードは、持続可能性という観点から
- フードロスの削減とシェアリングエコノミー・地産地消
- 再生可能エネルギーの普及とエネルギーの分散化
- 「労働の価値」と「働く場所」の相対的価値の低下
と言った変化が生じます。こうした社会を想定し、闇雲な「人口減少対策」を講じるのではなく、
- 新しい社会で暮らす人の、「適正な人口規模」を算出し
- 環境保護の観点から、過剰な人口流入は制限する
という方針が良いのではないでしょうか?