観光客は増えているのか?
本日は、4月10日に発表された、五島市観光統計のご紹介です。
http://www.city.goto.nagasaki.jp/contents/city_ad/index235_3.php
観光統計によると、観光客数は毎年確実に増えている、と紹介され、H30年度は24万人の大台を突破しました。
しかし、この数字には注意点があります。
【統計算出の方法】
① 平成29年までは、航路・航空路の総降客数から観光客の割合を予測し、観光入込客数を推計していた。
② 平成30年からは、航路・航空路の総降客数から離島住民にのみ適用される国境離島島民割引者数を控除。さらに転入者数を減じた数値を観光入込客数として推計。
つまりH30年の方が精度は高いはずですが、逆に言うと、H29年度までの推計は精度が怪しかったとも言えます。
そもそも、算出方法が違うデータなので「増えた・減った」という評価はあまり意味がなさそうな気がします。
「数字が増えてます」と言われれば、「なんとなく良い印象」を受けますが、見た目の数字に惑わされずに、その意味を捉える必要があるでしょう。
政府の統計不正問題も含めて、「数字に踊らされない」批判的なモノごとの見方が必要だと感じます。
航空路の課題
航空路については
特に多客が見込める夏季の7月・8月に天候不良及び機材故障による欠航が合計 52 便発生。
とあり、年間の就航率は少しずつ下がっています。
- H28 96.1%
- H29 94.6%
- H30 93.3%
これは天候による欠航(天災要因)と、機材故障(人為要因)による欠航の二つに分類し、人為要因に改善すべき余地があるか、検討が必要でしょう。
観光消費額
観光消費額は
86億7,600万円と推計され、前年に比べて
14.5%、額にして10億9,800万円の増となっている。
とあります。ただし、観光客の算出根拠は出ていますが、消費額の算出方法はなぜか出ていません。
観光消費と言えば、ホテル・飲食店・お土産屋さん・運送事業者からのヒアリング結果でしょうが、ここには例えばレジャー消費が含まれていません。
例えば、私が運営するSUP事業でお客様が消費したお金の総額は、市役所の方から個別にヒアリングをされていませんので、漏れています。
さらに、観光客が使う飲食店は、地元の方も利用するので、「観光消費額としての飲食額」を明確に区別することは困難です。
今後は、「観光消費額の中身」の精度を高めると共に、抜け落ちている数値(主に体験型観光)をどう推計するか?
という視点が必要です。
施設の経済効果は軽微
主要観光施設の状況 では、各施設の入場者数が提示されています。
- 旧五輪教会堂(倍増)
- 江上天主堂(倍増)
- 堂崎天主堂(30%増)
しかし残念なことに、世界遺産の教会には、観光消費額に含まれるべき「お金の使いどころ」がありません。
堂崎や歴史資料館は入場料が徴収されますが、どちらも500円以下です。
例えば、堂崎天主堂への客数は33,200人とありますが、入場料が大人300円ですので、総計9,960,000円。
これは観光消費額全体(8,676,653,000円)に占める割合のわずか、0.1%にしかすぎません。
そのため、観光消費額への寄与度は極めて限定的です。
今後は、観光消費額全体のうち、どの分野の消費額が多いのか、全体の傾向を把握する傾向があります。
現状と今後の課題
数値目標はただの数字
ここで述べられている数値目標としては
平成31年における観光入込客数を「26万人」
が掲げられています。
この数字は、単純に「計画作成時点の実績」から機械的にx%ずつ上昇する見込みで算出しただけなので、数字を追う事自体に大した意味はありません。
26万人を達成したからと言って、国から表彰がある訳でもなく、観光消費額との関連性も不明確だからです。
現在のように、
「お金を使わずただ教会に足を運ぶだけ」
のお客さんが増えても、地元の方の負担が増えるだけです。
外国人観光客誘致事業
平成30年の外国人観光客数は、1,668人(前年1,478人)と推計され、前年比190人の増となり、この数値も過去最高を記録
とあります。
注意が必要なのは、「外国人の割合が増えた」のではなく「母数が増えた」という事です。
こちらの通り、観光客数の増加率と、外国人の増加率も全く同じです。
H29 | H30 | |
外国人 | 1,478 | 1,668 |
前年度比 | 113% | |
観光客 | 213,371 | 240,131 |
前年度比 | 113% |
観光客数全体で見れば、外国人はまだまだ全体の0.7%にしか過ぎません。
インバウンドについて五島は、東京や大阪と比べると、殆ど鎖国状態です。
五島市は今年度(R1)の方針として
インバウンド(訪日外国人旅行)については、これまでの韓国中心の誘客活動に加え、欧州市場への開拓にも取り組んでいく。
とあります。
誘致の前に、五島市はホテルや案内所の英語表記を増やすとか、ガイドや観光窓口で英語を話せる人を増やすとか、ハードとソフトの整備を急いだほうが良いでしょう。
こうした受け入れ体制がある程度しっかりしないと、現場も混乱するし、CSRも低下すると考えられます。
修学旅行誘致
体験民泊を平成26年に開始して以来、毎年、着実に増加している。
とありますが、ここ数年は、供給力不足(民泊事業者の高齢化と負担の増加)を背景に受け入れ件数はさほど伸びず、ほぼ頭打ちの状態となっています。
この点についても、インバウンドの受け入れと同様で、「民泊の受入れ先をいかに確保するか?」という視点が必要です。
現在の枠組みでは、供給力が減る一方なので、受け入れを増やしたければ、「新たな担い手」を発掘する必要があります。
宿泊施設の魅力向上
宿泊施設は1年間で10件も増え、宿泊客数も16%以上の伸びを見せています。
ただ、宿泊事業者の中には、「宿泊施設の建設バブル」を警戒する声も少なくありません。
東京オリンピックと同じ現象ですね。
観光客数の伸びが増加しないまま宿泊施設が増えれば、当然パイの奪い合いとなり、宿泊施設1件当たりの稼働率が下がります。
その分、儲けの幅が減るため、「おもてなし向上」のための設備投資を行う余地が少なくなります。
全体として、「おもてなし度の高い」宿泊施設を提供したいのであれば、宿泊件数は減らし、1件当たりの稼働率が高い方が望ましいです。
稼働率の向上によって得た利益を、「おもてなし力の向上」という形で再投資できるからです。
その辺りの部分(宿泊施設の建設ラッシュによる消耗的な競争の激化)を、宿を提供する事業者さんは一番懸念しています。