小説書いてみた-4-「天国からの勧告」

  • 2018年5月28日
  • 2020年3月8日
  • 雑談

天国からの勧告

のぞみは13歳の頃に、交通事故でこの世を去った。

私と同級生だったのぞみは一番の仲良しで、よくお互いの家に行き来して、勉強をしたりゲームをしたりしていた。

不慮の事故に逢ったのぞみの両親は、大切な一人娘を失ったことが原因で夫婦の関係が悪化し、離婚をしたと聞いた。

私はそんな小さい頃の悲しみを経て、高校・大学を卒業し、結婚して子供を持った。

家を持ち家庭を築き、子育ても無事に一段落、子供も13歳になった。

人生は今のところ、順調に進んでいる。

そうした折、ふと20年以上前の事故を思い出し、私は今、のぞみの母親と同じ立場にいるのだと思い知らされた。

今娘を失うことは、私にとって想像さえも出来ないことだけど、不慮の事故は突然襲ってくるものだ。

そんなある日、信じられない出来事が起こった。

「天国の親友 のぞみより」

と書かれた封筒の中には手紙が入っていて、見覚えのある筆跡でこう綴られていた。

『私が今居る天国は、本当に最高の場所だから、あなたも絶対こちら側に選ばれたほうがいい。』

私は最初、手の込んだいたずらだと思っていたのだが、小学生の頃から思い出として手元に保管しているのぞみの手紙は、筆跡が全く同じだ。

更にその手紙を読むと、天国には現世や「地獄」と繋がる情報網があるらしい。

『地獄は文字通り、最悪の場所。あんな辛い様子を見るのは心が痛いから、物好きしか覗かないわね。』

手紙の趣旨としては、天国がどれほど素晴らしい場所か、と言うことが書かれていた。

気の合う友人たちと過ごす時間、平和なコミュニティでの居心地の良さ、景観の素晴らしさ、などが書いてある。

考えてみれば、世の中は残酷だ。ヒトは現世で生きているよりも、何倍も、何十倍も長い時間、死んでいるからだ。

死んだらヒトはどこへ行くのか?

幼い頃から、「天国か地獄かのどちらかに行く」と聞いていた。

しかもその判断基準は、現世の行いによって決まるらしい。

のぞみからの手紙によると、一度地獄に行った人は、這い上がるチャンスは一切ないらしい。

つまり、一度地獄に落ちたものは、無限とも言える時間の中で永遠に苦しみ続けなければいけない。

喉元過ぎれば熱さ忘れる、とは言うが、救いがないのは辛い。

私はついに、その「不都合な真実」を知ってしまった。

のぞみ曰く、神様の判断には、「減点方式」と「加点方式」があるらしい。

『若くして亡くなった人の方が、私のように天国にいける確率は高い気がする。大人になってから天国に来るのは、中々簡単じゃないのよ。』

と書いてあった。確かに、13歳の頃の自分と、今の私だったら、幼い頃の方が天国に行ける確率は高いと思う。

言い方を悪くすれば、現世で延命をすればするほど、減点されやすくなる、と言うことだ。

しかもどうやら、神様の判断は人間の常識とは大きくかけ離れているらしい。

実際に、天国にはいわゆる「偉人」や、人類社会への貢献をした人が多いわけではなく、圧倒的に子供が多いということだ。

ノーベル賞クラスの著名人や大統領・名前を聞いたことのある人は、殆ど見かけないという。

しかも不思議なことに、10歳以下の子供は天国に居ないらしい。どこか別の世界に飛ばされるのかもしれない。

のぞみの情報によると、年齢を重ねるにつれて、「天国へのハードル」は高くなるそうだ。

天国へ行くポイントは、悪行を重ねず、コツコツと善行を積み重ねるしかないのだが、最近は難しくなってきているらしい。

なぜなら近年の傾向では、「生活スタイルそのもの」が減点になるケースが多く、昔のようにただ悪いことせず生活をしているだけでは、天国に行くのは難しいからだ。

そのため必然的に、天国の「人口ピラミッド」は、キレイな三角形が保たれているらしい。高齢になるにつれて、「審査基準」が厳しくなるからだ。

私はどうだろう?

もう決して若くはない年齢になったのだが、今ひとつ自信がない。もちろん、法に触れるような悪さをしているわけではない。

だけどのぞみが指摘するように、生活の中で「何もしていないこと」が減点対象になるのかもしれない。

死んだ後、天国へ行けるだろうか?

そんな不安を感じるようになってきた。

『ひとつだけ。大事なことを教えてあげる。』

とのぞみが付け加えていた。

『判断の基準は、10歳ごとに上がられていくの。10代の基準と20代の基準は全然違うし、39歳と40歳では、断然39歳の基準の方が緩いって訳』

更に文章は続く。

『あなたの場合だと、もうすぐその分岐点になるの。だから私からのアドバイスとしては、早めに天国に来たほうがいいわよ。』

私はごくりと唾を飲み込む。だって、それはもう、数年先のことだから。私にはまだ元気な両親と、子供と旦那がいるのに。

『そのタイミングを逃すと、天国へ行くためのハードルも、ぐっと上がるわ。本当に。天国と地獄は雲泥の差だから、早めに決断したほうが良いわ。』

新聞のニュース記事を見ると、ここのところ、30代の後半で自殺する人の割合が、増えてきているらしい。

 

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