【五島牛】子牛の競りでバイトした話

島外へ売られる子牛たち

五島牛は有名なブランドの牛だが、ここ福江島では食肉用ではなく、子牛を島外へ売り出すほうが盛んだ。

子牛として出荷された牛は全国各地で飼育され、最終的に処理される場所の地名で黒毛和牛として卸される(○○牛という感じで)。

2か月おきの奇数月に「競り市」は開催され、全国各地から牛のバイヤーたちが集結する。

ギュウギュウに整列する200頭の牛たち
丹念にチェックするバイヤーたち

私はひょんなツテで、見学がてらにそこでアルバイトをすることになった。

体重を測定するお仕事

私は最初、競り市で牛を引いて歩く仕事をするのだと思っていたのだが、実際に与えられた仕事は違った。

その仕事は「ボタンを押す」、「レバーを引く」というだけの簡単な仕事ではあったのだが、それなりに神経を遣った。

牛の体重測定器

入場番号の牛が体重計に乗ったことを確認し、測定ボタンが点灯になったら「印字」ボタンを押す。

そして牛が「Go」できるように、レバーを引いて門戸を開放する。

それを牛の数だけ繰り返す。

実に単純なお仕事ではあるのだが、これがまた中々神経を遣う。

子牛の抵抗

子牛たちは一様にこの無機質極まりない測定器具に怯えている様子であり、頑なに搭乗を拒否する。

涙を浮かべながら、涎を垂らしながら、そしてうめき声をあげながら、必死にその場に留まろうとする。

それだけならまだしも、元気な場合は測定器を乗り越えようとしたり、踵を返して後戻りをしようとする。

そうした抵抗があるたびに飼育員に取り押さえられ、近くにいる私もビビって思わず後ずさりする。

何しろ子牛とはいえ、大きいものでは体重が350キロ近くもある。ぶつかったり蹴られたりしたらヒトタマリもないだろうことが容易に想像できる。

子牛の額には「入場番号」が付与され、彼らが順番に体重計に乗っていく。

競り会場の様子

気難しい顔をしたバイヤーたちの前に、体重測定を終えた牛が順番に登場し、値段が付けられていく。

最近のテクノロジーは発展していて、参加者は配布されたスイッチ(実際に見ることはできなかった)をポチポチと押しながら、競りに参加するらしい。

会場中央に設置されたモニターに金額が表示され、スタートするとストップウォッチのように目まぐるしく数値が上がっていく。

その流れはとても事務的だ。

何しろ数百頭の牛を一つ一つ競りにかけていくわけだから、当然時間がかかる。

私は2日間、ずっと体重計の前でボタンを押し続けたのだが、初日は2時間半、二日目は3時間くらいかかった。

仕事を終え牧草を食む牛たち

牛たちにしても、精神的なストレスが大きい仕事であったに違いない。

心なしか、牛たちのうなり声は

「うんめえええええええ!」

と叫んでいるように聞こえた。

牛の値段と命の長さ

私はずっと体重計の前に張り付いたので競りの様子は少しの時間しか見れなかったのだが、値段はピンきりだった。

単純に、体重が大きければ高く売れるという訳ではなく、血統や生産者、病気の有無や性別といった要素によって品定めされる。

他の人に聞いたところ、「平均価格は78万」だそうだ。そして出荷された牛たちは、「32か月」を目安に食用として処理されるそうだ。

牛の寿命が15年~20年であるという事から考えると、食用の牛たちの命は実に短い。

体重測定器の前で怯えた表情を見ながら、絶対的な運命として数年以内に殺戮機の前に運ばれるであろう哀れな末路を思った。

そういえば、昨日の夕食も牛タンだった。