長崎県議会(H30.3月)の議論を基にして、長崎県の財政状況と、その取り組みを分かりやすく紹介します。
基金の取り崩さないように
議員の発言によると、長崎県は
県税収入の割合が低く、非常に厳しい財政状況にある
そうです。そのため、蓄え(貯金)を取り崩しながら財政運営を行っているそうです。基金の残高は
平成28年度末には263億円と、ピーク時の半分以下にまで減ってきている
そうです。長崎ピンチ!ですね。県としては、
平成33年度(2021年)までに基金の取り崩しに頼らない財政運営を目指す
そうです。果たしてそう簡単に行くのでしょうか?これに対する知事の答弁は、
歳入確保及び歳出削減の両面から、財政健全化に向けた取組を一層強化する
国に対して、地方の実情を踏まえた地方交付税財源の充実・強化を強く求める
ことを通じて、
平成33年度までに、決算段階における基金取り崩しゼロを目指す
そうです。凄く簡単に言えば、
- 頑張って自分でもっと稼げるようになります!
- 頑張って余計な支出を減らすようにします!
- だから、もっとお金ください!(お国へ)
という感じです。
では、具体的にどう頑張るのか、そのあたりを見ていきましょう。
IRの誘致=地方創生?
IRに対する長崎県知事の見解は、
IRの導入は、地域経済に大きなインパクトをもたらし、交流人口の拡大のほか、新たな雇用創出や定住人口の増加が見込まれるものであり、県勢浮揚のチャンスと考えております。
これは上述の、「自分で稼ぐ」ための大きな材料となりそうですね。ただ、これは全国各地で同じような誘致競争が見込まれます。長崎では、具体的な取り組みとして、
超党派の国会議員によるIR議連総会に出席し、「地方創生の観点からの地方都市へのIR導入」について、強く訴えてまいりました。
お国の掲げる「地方創生」という旗を掲げて、誘致をスムーズにしたい考えのようです。
あえて長崎を「田舎の地方」と位置づけることにより、誘致に弾みをつけようという目論見のようです。逆に、「地方創生」という単語がなければ、他の大きな大都市圏にもっていかれそうですからね。
さらに知事はIRを、重要な外貨獲得の手段としても捉えているようです。
古くから海外との交流の窓口として発展してきた歴史や、東アジアとの深いゆかりといった本県の優位性を活かして、IRという玄関口を設けることが必要であると考えており、本県から全国への新たな人の流れを生み出すことで、国際競争力の高い滞在型の観光を実現し、地方創生を成し遂げたいとの決意でおります。
ということらしいです。誘致競争に打ち勝つために、「地方創生」という枠でIRの実現を狙っています。
九州新幹線西九州ルートの推進
九州新幹線西九州ルートは、長崎市(長崎駅)と福岡市(博多駅)を結ぶ約143kmの新幹線ルートです。詳細はこちら。
国のほうでは、3つの方式を検討しているようです。
- フリーゲージトレイン
- フル規格
- ミニ新幹線
これらの各整備方式に関し、費用や投資効果などの比較検討作業をしているそうですが、長崎県知事としては、最も費用対効果の高い「全線フル規格」を要請しているそうです。また、JR九州も同様の見解を示しています。そのため長崎県としては
本県の考え方を改めて整理し、本県選出国会議員の皆様方のお力添えを賜りながら、国に対して、フル規格による整備の必要性を引き続きしっかりと訴えてまいりたい
そうです。しかし一方で、お隣の佐賀県は、全く逆の見解を示しています。
その理由もやはり費用対効果です。
新鳥栖~武雄温泉間は佐賀県内のため、区間の地方負担分はすべて佐賀県や佐賀県内の市町村が出します。検討結果では、その金額は約1100億円だそうです。
どこも財政事情が苦しいのは同じです。それに路線図を見れば分かりますが、今回の高速な新幹線が出来ることによって、佐賀県はすっ飛ばされます。
佐賀県の立場からしてみれば、
(お金を出したのに、地域にお金は落ちない!なんでそんなこと、しなきゃいけないの?)
という感じでしょう。
実際、佐賀県としては、
「フル規格による整備は現実的ではなく、国における今後の議論を見守る」
という姿勢であり、長崎県との隔たりは大きいものがあるそうです。こうした事情を踏まえ、長崎県では
「整備新幹線建設に伴う地方公共団体の建設費負担の軽減のための制度充実」についても要望した
そうです。それに加え、
現在、取りまとめを行っている経済波及効果額の推計等をもとに、佐賀県をはじめ、関係自治体の理解が深まるよう、引き続き、意見を交わしてまいりたい
そうです。「経済波及効果」がこの時点まで取りまとめられていないのは「?」な感じもしますが、新幹線という大型案件は、中々合意形成が大変そうですね。
石木ダムの建設推進
質問をした市議会の議員(溝口氏)によると、
長年佐世保市に住み、渇水を体験してきましたが、安定した水源の不足は、佐世保市民にとって深刻な問題であり、改善を図らなければならないと身をもって強く感じているところであります。
ということだそうです。それに加えて、佐世保市は有力な観光都市の「将来性」があると述べられています。
西九州自動車道の整備による企業誘致
ハウステンボスにおけるIR施設の整備
国際クルーズ船の拠点整備
これに対する知事の見解は、以下の通り、市議と同様のものです。
石木ダムの建設は、川棚川の抜本的な治水対策と佐世保市の慢性的な水源不足解消のために必要不可欠な事業であります。
ところが、工事の反対運動もあるそうです。
付け替え県道工事については、事業に反対する方々による現場内での妨害行為が依然として続いております。
反対派の主張を見ますと、「現在でも水は足りているのに、無駄なダムを作る必要はない」という形です。
ダムが完成する頃に水の需要が急激に増加し、石木ダムを造らないと佐世保市の水が足りなくなる。
という分析は、おそらく佐世保の将来的な発展計画(IRや企業誘致)が全て上手く行く、という楽観的な見通しを元に作成されているのでしょう。
市民の反対を無視する形で、工事はドンドン進んでいく模様です。知事の答弁によると、
職員の応援体制を強化して、安全を確保しながら、大規模な盛り土工事を進めているところであり、今年度中には工事延長約220メートル、最大約12メートルの高さまで道路部分の盛り土を進める予定としております。
だそうです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
現在長崎県では、財政健全化に向けて「自分で稼げる方法」を探っている状態です。
- 「地方創生」を謳い文句としたIR誘致による経済効果
- 「石木ダム」の整備による佐世保の水道インフラ整備
- 「長崎新幹線西ルート」整備による交通インフラ整備
ただ、「IR」も「ダム」も「新幹線」も、様々な利害関係者による反対が数多く存在します。
肝心のIRがこけてしまっては、その他のプロジェクトも計画が崩れてしまいそうなので、今後も注目して行きたいですね。