木口議員の反対討論のおかしな点

第三者委員化の支出に対する議会監査の発議に対して、木口議員は反対討論の中で

そもそもですが、住民監査請求は、地方公共団体の長や委員、職員が行う不正行為、違法行為、あるいは不当な行為について、監査委員に監査を求める制度です。今回の事案は、このような事案ではないというふうに考えます。

と述べました。

令和8年6月議最終日3.第三者委員会への議会監査決議

が、そもそも今回の決議は、地方自治法第242条の住民監査請求ではなく、地方自治法第98条第2項の議会の請求に基づく監査です。

1.今回提出されたのは「住民監査請求」ではない

今回の決議は、地方自治法第242条の住民監査請求ではなく、地方自治法第98条第2項の議会の請求に基づく監査です。

提出された決議にも、冒頭で明確に、

地方自治法第98条第2項の規定により、監査委員に対し監査を求める

と記載されています。

したがって、木口議員が「住民監査請求」の要件を持ち出して、今回の監査請求の適否を判断したのであれば、根拠条文を取り違えています。

地方自治法第98条第2項に基づく議会請求監査について、北海道監査委員事務局は、議会が監査委員に監査を求められる対象を、原則として「地方公共団体の事務全般」と説明しています。違法・不当な行為が事前に確認されていることは、請求の要件とされていません。

2.議会請求監査は「違法・不当の疑い」に限定されない

議会請求監査の対象は、自治体の事務執行です。

監査では、単に法令違反があるかだけでなく、

  • 正確に処理されているか
  • 無駄な支出がないか
  • より効率的な方法がなかったか
  • 所期の目的や効果を達成しているか

という観点からも検証できます。

長崎県の監査基準でも、監査の観点として「合規性」だけでなく、経済性、効率性、有効性を掲げ、「最少の経費で最大の効果を挙げているか」を特に留意する事項としています。

札幌市も、監査は法令適合性に加えて、正確性、経済性、効率性、有効性の観点から行われると説明しています。

したがって、

違法行為や不当行為が明らかでなければ監査できない

という理解は、議会請求監査には当てはまりません。

むしろ、適正だったか、不適正だったか分からないからこそ、独立した監査委員に資料を調べてもらうのが監査請求の役割です。

3.今回の監査対象は、明らかに自治体の事務執行に当たる

今回の決議で監査を求めたのは、主に次の事項です。

  • 委託契約の方式と事業者選定
  • 予定価格や見積書、913万円の積算根拠
  • 契約書・仕様書どおりに業務が履行されたか
  • 市がどのような検査を行ったか
  • 913万円全額を支払った判断が妥当だったか
  • 実施されなかった業務や未使用経費について精算・減額の必要がなかったか

いずれも五島市の契約事務、検査事務、支出事務であり、典型的な自治体の財務事務です。

自治体の公式説明でも、監査の対象となる財務事務には、予算執行、支出、契約などが含まれるとされています。

したがって、「今回の事案は監査の対象に該当しない」という評価には、法的な根拠が見当たりません。

4.仮に「住民監査請求」だったとしても対象になり得る

さらに重要なのは、仮に今回の手続が地方自治法第242条の住民監査請求だったとしても、木口議員の結論は必ずしも成り立たないことです。

住民監査請求の対象には、法律上、

  • 違法・不当な公金の支出
  • 違法・不当な契約の締結
  • 違法・不当な契約の履行
  • 違法・不当な債務その他の義務の負担

が明記されています。

今回問題としているのは、まさに、

  • 委託契約の締結
  • 契約の履行確認
  • 検査
  • 913万円の支出

です。

そのため、具体的な事実や証拠を示し、「必要最少限度を超える不当な支出ではないか」「契約内容と実際の履行に乖離があるのではないか」と主張するのであれば、住民監査請求の対象となる財務会計行為にも形式上該当し得ます。

ただし、住民監査請求の場合は、対象となる財務会計行為を特定し、違法又は不当と考える理由と、それを証する書面を添える必要があります。最終的に請求が認容されるかどうかは、監査によって別途判断されます。

5.「第三者委員会が必要だった」という反対理由とは別問題

木口議員の反対討論の大部分は、

  • 第三者委員会は必要だった
  • 市職員だけでは十分な再発防止策にならない
  • 外部委託だからこそ意味がある

という政策判断を述べたものです。

しかし、今回の監査請求は、第三者委員会の必要性そのものを否定する内容ではありません。

「第三者委員会が必要だったこと」と、

「913万円の積算、契約、履行確認、支払が適正だったこと」

は別々の論点です。

第三者委員会が必要だったとしても、

  • 見積りが過大でなかったか
  • 想定された業務が実施されたか
  • オンライン実施への変更に伴い減額の必要がなかったか
  • 市の成果物検査が十分だったか

を検証することは可能です。

したがって、第三者委員会の必要性を主張するだけでは、監査の必要性や適法性を否定したことにはなりません。

結論

木口議員の発言は、「住民監査請求」と「議会の請求に基づく監査」を混同しており、今回の決議が監査対象にならないとの結論は妥当ではありません。

より正確に表現すると、次のとおりです。

今回の決議は地方自治法第98条第2項に基づく議会請求監査であり、違法又は不当な行為が既に明らかになっていることは要件ではない。委託契約、積算、履行確認、検査及び公金支出が適正・効率的に処理されたかは、正当に監査を求めることができる事項である。監査の結果、問題がないと判断される可能性はあるが、それは「監査対象にならない」という意味ではない。