年間維持費2千万円!五島市のモバイルクリニック事業への心配

2023年1月20日、五島市でモバイルクリニック事業のお披露目会がありました。

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https://www.monet-technologies.com/news/press/20230120_01

https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20230123/5030017020.html

2022年6月の臨時議会で可決された案件ですが、改めて当時の議論を振り返りながら、事業の紹介です。

導入に至った経緯

令和4年6月議会にて、以下のような形で提案がされました。

国のデジタル田園都市国家構想推進交付金を活用し、オンライン診療の機能や医療機器を搭載した診察のための専用車両の導入、運行に要する経費としてスマート巡回診療推進事業委託料5,343万4,000円を追加計上しております。

事業の内容としましては、看護師等が乗車する診察のための専用車両が、患者宅や近隣の公民館などに出向き、看護師のサポートの下、病院や診療所にいる医師、薬局の薬剤師とオンラインでつなぎ、診察や服薬指導を行うものとなります。

移動が困難な患者が、医療機関まで通院せずに受診ができるようになり、また、患者のそばで看護師が対応することで、より質の高い診察が可能となることが期待されるものでございます。

事業費としましては、専用車両や車両に搭載する医療機器の導入費用、看護師や車両運行などに係る委託料について計上しており、事業運営につきましては、長崎大学や市内医療機関、調剤薬局などと連携して進めてまいります。

なお、現在、新型コロナウイルス感染症の拡大等に伴う部品供給不足などにより、車両の製造、納入に遅れが生じることが想定される状況にあることから、議会の議決を頂いた後、早急に事業着手するため、今回の補正予算に計上いたしております。

2度目の予算案への反対!結果は?

維持管理の経費

①導入費用

公文書開示請求を行ったところ、初期導入の費用としては

  • プロジェクト推進・評価・分析
  • 島外事業者への交通費
  • 配車システム導入・利用料金
  • オンライン診療アプリ利用料
  • 人件費(運転手、看護師)
  • 機材維持費(車両、器具)

がかかり、R4年度の導入金額として48,174,016円が支出されました。(費用の明細は非開示)

導入部分は国の財源を活用し、以下の交付金から半分ずつの支出となりますが、かなり高額な印象です。

  1. 新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金
  2. デジタル田園都市国家構想推進交付金

特に①は自由度の高い交付金ですので、本当にこの事業に使うべきだったのか検証すべきです。

②維持費

具体的な金額について、R4年6月議会では、

そのまま年間ベースでランニングコストを考えた場合に、3,000万円ほどになってしまいます。これについては、なるべく低い金額に抑えられないかということを、実装の中でいろいろ検討はしていきたいと思いますが、患者の負担というところも、ちょっと増やせないと思っております。

との答弁でした。

https://ssp.kaigiroku.net/tenant/goto/SpMinuteView.html?council_id=107&schedule_id=2&minute_id=36&is_search=true

導入に関する補助は国からありますが、維持管理の面は

補助金、交付金などもうまく活用しながら進めていきたいと考えております。

との事でした。

令和5年当初予算

ところが当初予算では、

と示され、全く「補助金、交付金をうまく活用」できていません

予算に充てられる「ふるさとづくり基金」は、財源が乏しい五島市の貴重な自主財源です。

つまり、年間2千万円、国の補助なしで車両とシステムを維持しなければなりません。

果たしてこれが「実現したいこと」に対して最も効果的なお金の使い方でしょうか?

別の方法として、訪問看護の充実の方が効果的ではないでしょうか?

二次離島の医療

五島市には、定期船での車両運搬が出来ない二次離島があります。

そうした地区こそ、医療不足が生じておりニーズが高いのですが、残念ながら車両は来れません。議会ではその点について

車が行けない黄島とか赤島については、既にオンラインでの診療とかを実施したりしてるんですけど、そういった形で、必ずしも車がなくても対応ができる部分というのはありますんで、そういった対応もありますし、例えば今回のようなポータブルの医療機器を使って、小回りの利くような診療も対応できる、今後検討をする必要が出てくるかもしれません

とのことでした。

いきなり本格導入

今回の事業は、実証事業を経ずに、いきなり本格導入されています。議会でもその点が指摘されましたが、理由については、

デジタル田園都市国家構想推進交付金が、実装を対象とした補助事業であること

だそうです。

なぜ臨時議会で突然提案されたかの理由については、

現在、新型コロナウイルス感染症の拡大等に伴う部品供給不足などにより、車両の製造、納入に遅れが生じることが想定される状況にあることから、議会の議決を頂いた後、早急に事業着手するため、今回の補正予算に計上いたしております。

との答弁で、「事業実施」ありきで検討が不十分なまま、見切り発車している感じがします。

まとめ

私はICTを含むデータや技術の利活用は積極的に推進していくべきと考える立場です。

議会の一般質問においても、役場のDXや島内での自動運転なんかの提案もしています。

が、だからといって、戦略立案も含め、何でもかんでも都内の大手企業に任せればよいという訳ではありません。

もっと地場の資源を活用して解決できる課題もあるはずです。

R4年6月の臨時議会で駆け込み的に承認されたモバイルクリニック事業ですが、

  1. 解決すべき課題に対する調査や方法論の検討が不十分であり
  2. 費用対効果を含めた維持管理費の見通しが不透明であり
  3. 見切り発車で事業を推進してしまったことにより

割に合わない財政負担が経常支出される事を懸念していましたが、それが年間2千万円となり、現実となってしまいそうです。