イランを巡るトランプ政権の対応
行動の一つ一つが世界中に波紋を呼んでいるトランプ大統領ですが、今回もまた世界を騒がせています。
騒いでいるのはメディアだという見方も出来ますが、今回の
「イラン核開発合意からの離脱」
は日本にとっても大きなインパクトがあります。今回はその経緯について、簡単にご紹介します。トランプ政権の行動から見える意図をまとめると、
- 選挙公約に掲げていた「オバマ政策」の否定
- 中国への接近を求める北朝鮮への、強硬姿勢の明示
- 政党支持基盤であるキリスト教福音派へのアピール
まずはオバマ政権への反対運動として、トランプ政権が公約に掲げていた項目を実践した、という側面があります。
オバマ政権でのイラン外交
もともと、アメリカとイランの国交は、第二次大戦後は良好な関係でしたが、イラン革命により反米的な政権が樹立しました。
イランはアメリカに対する警戒心・不信感から、国連安保理決議を無視して核開発を継続してきました。このあたりは北朝鮮とも似ていますね。
核開発の一方で、経済制裁によりイランの国民は苦しみ、対米協調路線による経済の再生を希求していました。
しかしオバマ政権下では、イラン以上に中国の存在が脅威となってきたため、一旦周辺諸国との軋轢は避け、幕引きを狙う形となりました。
そして経済制裁に苦しむイランと、中国のプレゼンス強化を抑えたい米国との間で、国交が好転しました。
オイルメジャーの思惑
イランの制裁解除に伴い原油生産が始まれば、原油供給は増える見込みでした。
なぜならイランには、生産コストの低い在来型の油田が豊富に残っているため、石油大手がこぞって開発に参入できるからです。
それに加え、天然ガス埋蔵量世界一を誇るイランには、未だLNGを輸出する設備が整備されておらず、輸出できない状況です。
イランの天然ガスは、ロシアからウクライナ経由でガス供給を受けるEUにとっても、代替候補として魅力的です。
そうした「旨み」に目をつけた大手資本(オイルメジャー)は、経済制裁解除を見込んでこぞってイランに殺到する見込みでした。
イランの減産に対する市場の不安
ところが今回の報道により、そうしたイランの「旨み」を活用する思惑は外れ、逆にイランからの供給が途絶えるという不安が生まれました。
イランからの原油供給(2018年3月の産油量は日量380万バレルあまりで、うち210万バレルを輸出)が完全に途絶えた場合、世界の供給量の約4%がなくなることを意味します。
参考情報はこちら。
実際のところ、全体の5%以下であれば、仮に供給が途絶えたとしても、致命的な損失ということにはなりません。
ただ、市場全体が
「今後はどうなるんだー!?」
「先行きが読めないぞ!?」
という形で不安が連鎖的に助長されている形も否めません。
オイルショックの時を思い出していただければ分かりやすいですが、
トイレットペーパーがなくなるかも
という不安が、トイレットペーパーをマーケットから奪いました。ここで肝心なことは、実需要そのものが供給力を奪ったのではなく、不安が供給力を上回ったということです。
市場にはこのように、「不安」を起爆剤として爆発的な「需要」となることがあります。そうなると、価格は不必要に上がってしまいます。
今回の騒動でも、必要以上にマーケットが不安に煽られていないか、観察してみるのも面白いでしょう。