スリランカ歩こうか1 優しい駅員

2015年夏。スリランカに一人旅をした時の話。

 空港に着いた時間が遅かったので、予約していた空港近くのホテルにタクシーで行った。

朝の空気を吸う

アジア特有の土っぽい匂いが、旅のわくわくを刺激する。

泊まったホテルには朝食のサービスがなかったので、部屋の鍵だけ渡して宿のおっさんに見送られる。

「どこから来たの?」

歯並びの悪い、人懐っこそうな感じである。私は逆に質問をしてみる。

「どこでしょう?」

「チャイナ?」

「残念。日本だよ。知っている?」

おっさんはにっこり笑い、もちろん知っているよと答えた。私が泊まったホテルは、郊外のひっそりとした集落で、道端で野良犬や、放し飼いにされている鶏が平気で歩いた。

そこかしこに野良犬

「狂犬病にかかると死ぬ」

と聞いていたので、おもわず身構える。寝ている犬の隣を通る時は、平気な顔しながらもドキドキする。

10分ほど歩いて線路に出くわして、人だかりが見えてくる。私はネゴンボ行きの方面を尋ねて、やってきた蒸気機関車のような錆びれた電車に乗った。

スリランカの車窓から

電車に乗った瞬間、乗客たちの好奇の眼差しが一斉に集まる。伏し目がちにしていたのだが、痛いほどの視線の嵐を感じた。この辺りでは日本人の存在が珍しいのだろう。乗客は私が無害な人間であるとを認めると、視線を外してくれた。

なぜかドアの閉まらない電車(危ない)に揺られること40分、私は乗客の様子をちらちらと観察してみる。月曜日特有の、気だるい憂鬱な表情を浮かべるサラリーマンは、日本とも一緒である。

ネゴンボ駅に到着した時、私は電車の切符を購入していないことに気がついた。いかん。このままでは無賃乗車の罪に問われてしまう

切符はないけど

しかしなぜか私は自信たっぷりで、「事情を話してお金を払えば大丈夫だろう」と思った。駅の改札口にいる、駅員と見られる老人に声をかけてみると、英語がほとんど喋れない。

困ったと思いながらも、なんとか身振り手振りで、私が切符を持っていないということを伝えた。彼はそれを認めると、面倒くさそうに、

いいよ、さっさと通りな

とでもいうような合図をしてくれた。何という自由さだろう。私はお礼を述べて改札を抜け、ネゴンボの駅に降り立った。

ありがとう駅員様

そこから4泊5日のスリランカ一人旅が始まる。