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国家賠償法に基づく地方自治体の支払い判決
国家賠償法とは?
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
要するに、使用者責任で「職員の責任」にはならないケースがあるという事です。
今回は、R7年3月議会で提案された地方自治体での事例について紹介をします。
裁判の内容について
(1) 原告 五島市民(死亡)〔A〕の子(市外在住)(X)
(2) 被告五島市〔Y1)、元市職員(市外在住)〔Y2〕
(3)請求の趣旨(訴状記載)
1 被告らは、原告に対し、連帯して、5,016万円及びこれに対する平成25年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに第1項について仮執行の宣言を求める。
原告の主な主張
① 五島市の元職員である Y2氏が、在職中にY2氏の職務上知り合った原告X氏の実母A氏の預金口座から不正に現金を引き出し、着服横領した。
② 着服は半成25年6月から同年11月にかけて行われ、横領額の合計は、4、560万円になる。
③ 被告らは、国家賠償法第1条第1項及び民法第709条の規定により、被害者A氏に生じた損害を賠償する責任がある。
④ 原告X氏は、五島市Y1と元職員Y2氏に対し、5,016万円(元金:4,560万円、弁護士費用相額:456万円)と、横領の最終日から支払済みまでの間の遅延損害金の支払を求める。
被告元職員の主な主張
① 幼少のころから親しくしていたA氏から金銭を譲り受ける趣旨で通帳を交付され、預貯金を引き出したものである。
② 被告元職員 Y2は、A氏から預貯金を贈与されたものであり、預貯金の引き出しには何ら違法性はなく、本件請求は棄却されるべきである。
被告五島市の主な主張
【答弁書(R4.11.14)】
① 被告元職員Y2がA氏のキャッシュカードを入手した経緯や被告元職員の主張が事実であるか現時点では判断できないため、国家賠償法上の責任を認めることはできない。
② 五島市としても可能な限り調査を行ったが、被告示職員 Y2が五島市の職員としてA氏の対応に当たっていたことを示す資料や供述を確認することができない。そのため、原告の主張する被告元職員Y2の不法行為の「業務関連性」(使用者責任)については”否認ないし争う”。
【最終準備書面(R7.1.6)】
① 被告元職員Y2とA氏との関連性について、職務上のものであることを疑わせる証拠は、診療録の記載を除いて存在していない。被告元職員Y2がA氏の自宅を訪問していたことは事実であると考えられるものの、そのことが職務に関連するものであることを示す証拠は存在しておらず、被告職員Y2が述べるその訪問の目的、態様等に照らして私的な訪問であったと考えざるを得ない。
② 仮に被告示職員Y2に不法行為が認められるとしても、当該行為が職務に関して行われたとはおよそ認められない。
したがって、五島市Y1が国家賠償法に基づく損害賠償責任を負うことはなく、少なくとも原告の五島市 Y1に対する請求は棄却されるべきである。
判決の内容について
主文1 被告らは、原告に対し、連帯して5,071万円及びこれに対する平成25年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
裁判所の判断(要約/抜粋)
1 争点(1)(贈与の有無)について
元職員が贈与を受けたことに関する証拠は、元職員の妹の供述録取書及び元職員の供述だけであるが、これらだけでは贈与を認定するには足りず、かえって、元職員は原告の母親が●●により●●ことに乗じて、法律上の根拠なく本件口座から違法に4、610万円を引き出して取得したものと認められる。
争点(2)(職務関連性)について
①平成24年4月以前に本件口座の通帳を原告の母親から交付されたとの元職員の供述は、不自然な点や周辺事情に反する点が多々あって全く借用し難い。
② 元職員は、平成24年4月以降に原告の母親宅を訪問した際、原告の母親の●●に乗じて本件口座の通帳等を手に入れた上、原告の母親が●●になったことを確認してからほしいままに貯金を引き出したと認められる。
③ 原告の母親方を訪問して自宅内に立ち入ることは元職員が保健師としての職務権限に基づいて行ったことであり、本件の行為容態は、元職員が保健師としての職務執行に関連して行われたものと認められる。
④ 市は、支援対象者の通帳を預かるような行為は元職員の職務に含まれないと主張するが、職務上●●自宅に立ち入った際に違法行為に及んでいる以上、通帳を預かる権限があったか否かは関係ない。したがって、市の主張はこれを採用しない。
強制執行停止の申立てについて
(1) 「仮執行宣言付き判決」について(主文第3項関係)
判決が確定する前に強制執行ができるようにする制度であり、暫定的な処分である仮差押えとは異なり、本格的な強制執行(※)ができる判決
※「強制執行」・・・勝訴判決を得たにもかかわらず、相手方が任意にお金を支払ってくれない場合に、判決を得た人の申立に基づいて、相手方に対する請求権を裁判所が強制的に実現する手続
(2)「仮執行免脱宣言」について
裁判所は、申立てにより又は職権で、担保を立てさせて、仮執行を免れさせることができます。(民事訴訟法第259条第3項)
(3) 「強制執行停止決定申立」について
仮執行免脱宣言を受けるためには、控訴した裁判所(高裁)又は訴記録のある判決裁判所(地裁)に対し、強制執行停止決定の申立をする必要があります。この申立が認められた場合、裁判所は担保を立てさせて強制執行を一時停止することができます。
(4) 強制執行停止決定申立のための担保(保証金)について強制執行停止決定申立を行うため、担保として保証金を供託する必要があります。保証金の額は事案ごとに裁判所が決定することになります。
保証金の額について顧問弁護士に尋ねましたが、算定方法に正式なルールはなく、事案ごとに裁判所が決定することになるということでした。一般的には80%程度と言われているということでしたので、仮にこの率で試算すると約6,400万円ということになります。
(保証金の試算)7,960万円(R7.3.25時点)✕0.8=6368万円
長崎新聞記事
地方議会での議論
控訴するか否かを巡り、五島市議会では賛成反対討論が行われました。