【令和7年3月/五島市議会】出口市長の方針①雇用を生み出し、稼ぐ“しま”をつくる

五島市では、議事録が公表されるまでに数か月かかりますので、3月7日に市長から公表された「施政方針」をご紹介します。分量が多いので、テーマごとに分けて記載いたします。

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令和7年3月議会定例会施政方針

冒頭挨拶

本日ここに、令和7年3月五島市議会定例会を招集いたしましたところ、議員の皆様方にはご健勝にてご出席を賜り、衷心より厚く御礼を申し上げます。

本定例会は、2月9日に執行されました市議会議員一般選挙後の初めての定例会であり、令和7年度当初予算案をはじめ、条例案、その他重要案件のご審議をお願いするものでありますが、議案の説明に先立ち、五島市の基本的な考え方と諸施策の概要を申し述べまして、議員皆様のご理解とご協力を賜りたいと存じます。

令和6年10月、石破内閣が発足し、「地方こそ成長の主役」との発  想に基づき、新しい地方経済・生活環境創生本部が創設されました。1 2月には、これまでの地方創生の取組により生まれた様々な好事例が普遍化することなく、人口減少や東京圏への一極集中の流れを変えるまでには至らなかった反省を踏まえ、地方創生の交付金を倍増するとともに、「安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生」や「東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散」などを柱とする「地方創生2. 0」の基本的な考え方が示されました。

また、1月24日の通常国会において石破首相は、全ての人が安心と安全を感じ、多様な価値観を持つ一人一人が、互いに尊重し合い、自己実現を図っていける「楽しい日本」を目指したいと述べられ、地方創生 2.0を「楽しい日本」を実現するための政策の核心に位置付け、「若者や女性にも選ばれる地方」をはじめとした5本の柱で、「令和の日本列島改造」として強力に進めるとしております。

県においては、長引く物価高騰への対応や総合計画の総仕上げと新しい長崎県づくりのビジョンの推進などを基本的な考え方として、「こどもが夢や希望を持って健やかに成長できる社会の実現」や「戦略的なブランディングによる国内外の多方面から『選ばれる長崎県』の実現」などを重点テーマとする令和7年度予算編成方針が示されております。

五島市では、令和7年度から5年間の第3期五島市まち・ひと・しごと創生人口ビジョン・総合戦略を年度内に策定し、最重要課題である人口減少・少子高齢化への対応を強力に推進してまいります。

総合戦略においては、目指すべき理想像を「創造する未来 海と共に輝 く宝“しま”」と位置付け、その実現を支える4つの基本目標を「雇用を生み出し稼ぐ“しま”をつくる」「世界中から訪れる、癒やしの“しま”をつくる」「安全・安心な、魅力ある“しま”をつくる」「人を育て、輝く、学びの“しま”をつくる」と設定しております。

令和6年の五島市の社会動態は、転入者が1,214人、転出者が1, 385人で、転入者が転出者を171人下回る社会減となりました。こ れは、学校統廃合による教職員及びそのご家族の減少などが影響しているものと考えております。

自然動態は、出生者が130人、死亡者が710人で、出生者が死亡者を580人下回る自然減となり、社会動態、自然動態を合わせた人口動態は、751人の人口減となりました。特に出生者は、五島市が誕生した平成16年の335人から200人以上減少しており、急速に少子化が進んでおります。

一方で、国立社会保障・人口問題研究所が平成30年と令和5年に公 表した将来推計人口を比較すると、20年後の2045年は、1万8, 159人から2万191人に約2,000人改善しております。これは、これまで人口減少対策に正面から取り組んできた結果であると考えております。しかしながら、第1期、第2期の五島市人口ビジョンで設定した目標人口達成には至っていないため、第3期の人口ビジョンにおいても、2060年の目標人口を引き続き2万人に設定しております。

また、令和7年は国勢調査が実施されますので、人口や世帯構成、就業形態など五島市の実態を把握した上で、各種施策を展開してまいりたいと考えております。

令和7年度当初予算は、第3期の総合戦略の重点事業に位置付ける取組を着実に推進するための予算とし、産業の振興、防災・減災対策、子ども・子育て支援、脱炭素化などに取り組み、引き続き、最重要課題である人口減少対策を推進してまいります。

平成29年に施行された有人国境離島法は、令和9年3月末に期限を迎えます。この法律は、航路・航空路の運賃低廉化、輸送コスト支援、雇用機会の拡充、滞在型観光の促進など、私達に大きな恩恵を与えてくれております。この法律をなくさないため、県及び関係市町と連携し、改正・延長に向けた取組を全力で進めてまいります。

それでは、令和7年度の施政方針について、第3期の五島市総合戦略の4つの基本目標に沿ってご説明いたします。

雇用を生み出し、稼ぐ“しま”をつくる

【農林業の振興】

農業については、関係機関と一体となって、引き続き付加価値の高いかんしょやカボチャなどの産地づくりを進めてまいります。

新規就農者の育成と確保については、国の新規就農者育成総合対策事業を活用し、就農前から就農後のフォローアップまで、きめ細かに支援してまいります。

有機農業については、国の「みどりの食料システム戦略」を踏まえ、令和7年度中のオーガニックビレッジ宣言に向けて有機農業実施計画の策定に取り組むとともに、農業者が有機農業へチャレンジしやすい体制を整備してまいります。

肉用牛の繁殖については、これまでの各種支援事業により、繁殖雌牛の増頭や子牛の生産が順調に進んでまいりました。しかしながら、物価高騰による資材価格の高止まりにより、全国的な子牛価格の低迷が続いており、繁殖農家の経営は特に厳しい状況に直面しております。

このため、国の子牛価格低迷対策を市独自の肉用牛経営支援事業で補完する形で繁殖農家を支援してまいりました。令和7年度も引き続き支援することで、繁殖農家の経営の安定を目指すこととしております。今後も、子牛生産基盤の弱体化を防ぐため、国、県の動向に注視し、状況に応じた対策を講じてまいります。

肉用牛の肥育については、市場の活性化と更なる経営基盤の安定・強化を目指すため、新たに肥育に取り組む繁殖農家に対し、肥育素牛の導入を支援し、繁殖と肥育を総合的に行う「一貫経営」を推進してまいります。

また、国立大学法人東京農工大学、株式会社ジャパンインベストメントアドバイザー、ごとう農業協同組合と令和6年8月に締結した連携協定に基づき、五島牛の品質向上やブランド力の強化に向けた研究に取り組み、肥育事業と素牛市場の活性化を目指してまいります。

養豚及び養鶏については、ブランド化の推進などを継続してまいります。

有害鳥獣対策については、有害鳥獣の生息区域は拡大しておりますが、農作物への被害は近年横ばいとなっており、これまでの対策による一定 の成果が見られます。引き続き、猟友会、専門業者などによる捕獲活動に加え、わなにかかったことを自動で知らせるICT機器「ほかパト」の活用など新しい捕獲技術の研究や効果的な侵入防止柵の整備を支援してまいります。

捕獲従事者の確保については、捕獲者の負担軽減と効率化を図るため、地域での捕獲隊を現在の16団体から更に増やしてまいります。

捕獲されたシカ・イノシシについては、ジビエを使った家庭料理のメニュー開発など、ジビエの消費拡大に努めてまいります。

農地基盤整備については、水田に比べ畑の整備が遅れていることから、富江の山下地区について、令和10年の事業着手に向け、意向調査、権 利者の調査などを行ってまいります。また、久賀地区、岐宿の寺脇地区の水田、富江の日の出地区の畑については、引き続き整備を進めてまいります。

林業については、搬出間伐により木材の生産量を拡大しながら、主伐再造林への転換を進めるとともに、作業の効率化を図るための高性能林業機械導入に係る経費や製材品・原木の島外出荷量増加に向けた輸送コストの支援に取り組んでまいります。

また、森林環境譲与税を活用し、個人所有の人工林を対象とした経営管理に係る意向調査や集積計画の策定により未整備森林の解消を図るとともに、森林整備の担い手確保のため、林業機械の取扱講習会や資格取得に係る経費の支援に努めてまいります。

林道については、林業専用道内闇線と林道中須線を整備してまいります。

椿の振興については、椿油や椿酵母を使用した特産品の展示会などへの出展を支援し、販路拡大と売上げの増加に向けた取組を推進するとともに、「椿の島・五島」の認知度向上に努めてまいります。

【水産業の振興】

水産業については、令和7年度から5年間の第3期「浜の活力再生広域プラン」を年度内に策定し、藻場の回復や子ども達への漁業や海の魅力の発信、水産関連施設の整備の支援などを実施し、持続可能な水産業の確立を目指してまいります。

また、五島産鮮魚の市場価格の向上とブランド化の推進に向け、鮮度保持技術「五島〆」の認知度向上を図るとともに、新たに東南アジアへの輸出を支援してまいります。

新規漁業就業者の確保については、漁業就業実践研修などにより、後継者の増加や定着化を図っており、令和6年度は3人の研修生が新たに就業しております。令和7年度の研修生は9人を予定しており、引き続き都市部における就業者フェアへの参加や地元漁家子弟に就業を促すことにより、研修生を確保してまいります。

また、独立・就業後においても漁具や燃油などの漁業経費を支援し、定着を促進してまいります。

漁業集落の活性化については、特定有人国境離島漁村支援交付金を活用し、漁業者や水産関連事業所による地域資源を活用した取組と雇用の創出を支援してまいります。

漁場の生産力の向上については、離島漁業再生支援交付金を活用し、 ガンガゼ駆除などの磯焼け対策、カサゴ、ヒラメ、クエなどの地域の環境に応じた種苗放流、市場ニーズが高いアオリイカの産卵床の設置など、実践的な取組を支援してまいります。

磯焼け対策については、これまでの活動により、藻場が徐々に再生しております。令和6年10月から開始した食害魚駆除事業により、更なる藻場の回復を目指してまいります。また、藻場が蓄える二酸化炭素量については、ブルーカーボンクレジットの名称で令和6年度は18.5トンを公売しております。

マグロ養殖については、クロマグロの養殖生産量が日本一である長崎 県において、五島市は県内生産量の約30パーセントを占めております。引き続き事業者、県、漁協などと連携しながら、マグロ養殖場における赤潮の情報収集や赤潮対策学習会の実施など、生産性の向上に向けた取組を推進してまいります。

また、養殖漁業におけるマダイの自動餌やりなど、ICT・IoT技術の活用を引き続き促進し、人手不足等の課題解決を目指してまいります。

燃油高騰対策については、漁業者の出漁機会を維持し、漁業経営の安定化を図るため、引き続き国の漁業制度セーフティネット構築事業と併せ、燃油経費を支援してまいります。

漁港の整備については、近年大型化する台風や高潮などによる被害を 防止するとともに、漁業者の労働環境の安全性、利便性の向上を図ってまいります。国の補助制度を活用し、椛島の伊福貴地区、富江の坪地区、三井楽の貝津地区及び嵯峨島地区において防風柵の設置、護岸の改良、防波堤の補修などを行ってまいります。

【物産・ブランドの振興】

物産・ブランドの振興については、都市圏のホテル、百貨店、スーパー、飲食店などへの営業活動や地域商社である五島市物産振興協会との連携を中心とした五島フェアの開催、バイヤー招聘による商談機会の創出を通じて、市内事業者の販路拡大と売上増加を目指してまいります。

また、離島振興地方創生協会との連携により、大手食品メーカーやスーパーなどで、五島の食材を使用した商品が開発・販売されるといった効果も表れています。引き続き同協会との連携を強化し、新商品開発及び販路拡大につなげてまいります。

海外への輸出を希望する事業者も複数いることから、関係機関などと連携し、販路開拓につなげてまいります。

【企業誘致・地場産業の振興】

企業誘致の促進については、長崎県産業振興財団と連携した企業訪問や五島市のPR動画作成など、企業の掘り起こしや誘致に向けた活動を行っております。令和6年度は、五島市に関心・興味のある企業10社の市内視察を受け入れ、新たなつながりもできております。引き続き、誘致の実現に向けて取り組んでまいります。

就業支援については、市内新卒者向けの合同企業説明会の開催や企業 ガイドブックの作成・配布による市内企業の認知度向上に向けた取組を実施してまいります。また、セミナーやリカレント教育によるスキル習得機会の創出、就業コンサルティングの実施により、若者、子育て世代、就職氷河期世代など、多様な人材の育成・確保に取り組んでまいります。併せて、関係機関と連携し、テレワーク、副業、兼業など、多様な働き方ができる環境整備に取り組んでまいります。

設立から4年目を迎える五島市地域づくり事業協同組合は、農水産業や製造業、宿泊業、介護などの地域産業の担い手を確保したい組合員企業に対し、組合で雇用した職員を派遣することで、人手不足解消と地域経済の活性化を図ることを目的としております。2月末現在、組合員企業は26社、派遣職員は9人で、令和6年度は延べ42の企業へ職員を派遣しております。また、これまで7人の派遣職員が組合員企業の社員として就職しております。引き続き、同組合の事業を支援してまいります。

創業支援・経営力強化については、有人国境離島法による雇用機会拡充支援事業を活用し、市内外の事業者による市内での創業や事業拡大を促進し、良質な雇用の創出・確保に努めてまいります。また、商工団体などの関係機関と連携して、創業に関するセミナーの開催や支援制度の活用を促進してまいります。

事業者においては、高齢化が進む一方で、後継者の確保が困難になるなど、事業承継が課題となってきております。県内には、国が設置する長崎県事業承継・引継支援センターがありますので、事業者からの相談に対して、商工団体と連携して同支援センターに引き継ぐまでの支援体制を強化してまいります。

先端技術を活用した産業の振興については、人口減少や少子高齢化による人手不足、移動手段の確保など、五島市が抱える課題の解決を図るため、国の補助金を活用し、AIやドローンなどの先端技術を活用した事業に取り組んでまいりました。

令和7年度は、陸上交通における自動運転の実証事業に向けた取組のほか、磯焼け対策やマダイの自動餌やりの実証事業において得られた結果を踏まえ、社会実装に向けた取組を支援してまいります。

崎山沖の浮体式洋上風力発電事業については、令和8年1月から全9機での運転開始が予定されております。これにより、五島市内の消費電力の約8割に相当する再生可能エネルギーが発電されると見込まれておりますので、再生可能エネルギーの地産地消を促進し、地域内での経済の循環につなげてまいります。

また、現在稼働している洋上風力発電施設を利用したメンテナンス人材育成プログラムを構築し、国内外の技術者を対象とした最新技術のトレーニング研修の実施を目指します。

潮流発電については、1,100キロワット規模の発電機を2月に設 置し、電力系統に接続する国の実証試験が開始されました。地域の方々や漁業関係者と連携しながら、円滑な事業の実施を支援してまいります。