再エネの主力電源化は実現可能か?

ねこ

再エネってこれから伸びるの?

主力にするほど伸びしろが大きいの?

こうした疑問に答えます。

この記事を読むと、最新版のエネルギー計画で述べられている「再エネの主力化」が可能であるかどうか、分かります。

日経新聞の1面によると、

梶山弘志経済産業相は13日、日本経済新聞のインタビューで、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを「他の電源に比べ上位の主力電源にしていく」と表明した。

とあります。果たして本当に可能でしょうか?

結論から言うと、「2030年時点では無理だが、2030年以降は本気になれば可能」です。

まずは主力化という言葉が登場するエネルギー基本計画についての紹介です。

そもそも、エネルギー基本計画とは?

国が定めるエネルギーの在り方の「こういう方向性で行きましょう」というプランです。

2002年6月に制定されたエネルギー政策基本法に基づく計画で、

  • 2003年 第1次エネルギー基本計画
  • 2007年 第2次エネルギー基本計画
  • 2010年 第3次エネルギー基本計画
  • 2014年 第4次エネルギー基本計画

と改訂されています。2020時点では第5次計画(2018年~)が最新となります。

詳細はこちら。

https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2014html/3-1.html

第5次エネルギー基本計画のポイント

日本は第5次エネルギー計画で「再エネの主力電源化」を目標としています。

https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/180703.pdf

それは果たして現実的に可能でしょうか?

それを考える前に、まずは「主力化とはなにか?」について考えてみます。

主力とは何か?

例えば家電メーカーの売上構成について、

  • テレビ:5割程度
  • 冷蔵庫:3割程度
  • エアコン:2割程度

だった場合、主力はテレビですね。ただし、テレビの入荷がたびたび遅れたりする場合は、安定的に売る事が出来ません。

そのため、安定的に上位を狙える商品が「主力」であると言えそうです。

日本の電源構成

2019年時点での日本の電源構成は以下の通りです。

  • 化石燃料(石炭+石油+LNG):66.4
  • 原子力:6.5%
  • 再エネ(水力・風力・地熱・バイオマス・太陽光):18.5%

こうしてみると、主力は圧倒的に化石燃料です。

政府目標で達成できるのか?

政府の第5次基本計画の目標では、2030年時点において

  • 化石燃料:56%(約ー10%)
  • 再エネ:22~24%(約+15%)
  • 原子力:20~22%(約+3%)

としていますが、これでも構成比としてみれば、主力と呼ぶには力不足な印象です。

それに加え、再エネの大きな要素である風力、太陽光は、安定的な電源供給が出来ません。

このことから、政府目標は「主力化」としていますが、「数値目標としては控えめ」である事が分かります。

次に、化石燃料・原子力・西エネの将来について、最新本の知見を基に、2030年の目標値に対する現実的な数値を紹介します。

化石燃料

化石燃料に依存する火力発電は、原発事故の後に急激に需要が増大しました(2017年には81%)。

先ほども紹介した通り、エネルギー基本計画ではこれを56%まで減らすとしています。

地球温暖化対策計画との矛盾

ところが、環境省が定める「地球温暖化対策計画」では、2050年までに温室効果ガスの8割削減を目指しています。

https://www.env.go.jp/press/files/jp/102816.pdf

温室効果ガスを減らすためには火力発電を減らすしかありません(ゼロエミッション化)が、それでは電気が不足します。

CO2を出さない原発にしても、目標数値では22%ですので、火力の削減分を賄いきれません。

つまり、2050年までに目指す「温室効果ガスの8割削減」と、2030年までの「化石燃料を56%維持」いう目標は矛盾している事になります。

国際的な対策への転換

日本だけでは、8割削減という目標達成は難しいため、国際的な問題へと目を向ける必要があります。

具体的には、高効率な化石燃料発電の海外移転です。

世界の潮流は「脱炭素化」の流れにあるとは言え、中国やインド、東南アジアの国々が「石炭とガス」の容量を増やす見込みです。

https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/029/pdf/029_005.pdf

こうした事から、日本の戦略としては

  • 日本国内の火力発電の高効率化

するよりも、

  • 海外での高効率化に貢献

する事の方が、トータルで見た時のCO2削減効果は高そうです。

石炭火力の廃止を唱える前に知っておくべき事実

実際、2014年のデータによれば、米国・中国・インドの3か国が日本並みの石炭火力を導入した場合、CO2削減量は日本の温室効果ガス排出量(2013年)の86%に相当するとの試算もあります。

脱炭素を目指す民間の動き

10月13日、JERAは2050年までにゼロエミッションに挑戦する、というプレスリリースが発表されました。

https://www.jera.co.jp/information/20201013_539

国内事業において「JERAゼロエミッション2050」を実現していくためのロードマップを策定するとともに、2030年時点での新たな環境目標も制定いたしました。

ポイントは次の部分です。

なお、今回掲げた「JERAゼロエミッション2050」を始めとする目標は、脱炭素技術の進展、経済合理性、政策との整合性を前提としております。

つまり、

  • 技術的なイノベーション
  • 価格での競争力
  • 政府が本気を出して取り組む事

がない限り、達成は難しいとも読み取れます。

原子力

10月14日の日経新聞によると、原発は

国内の発電量に占める原発の割合は18年度時点で6%にとどまる。震災の影響が出る前の10年度の25%から大きく低下し、回復は見通せない。

とされ、2030年時点で20~22%の目標を立てていますが、この目標達成は極めて厳しいとされています。

その理由を大きく3つ挙げると、

  1. 運転期間の延長に対する世論の反発
  2. 使用済み核燃料の処理の見通しが立たない
  3. ビジネスとして採算が合わない

が挙げられます。

運転期間の延長に対する世論の反発

原発事故以降、規制委員会が発足し、原発の安全基準が一段と厳しくなりました。

そうした中で、原発の稼働可能な年数として「原則40年」が掲げられ、特別な条件を満たした場合のみ、「60年運転」が可能となっています。

しかし、2030年時点では運転期間が40年未満の原発は18基に留まり、現在建設中の原発を加えても20基にしかなりません。

20基の原発が70%稼働した場合、総電力需要の15%しか発電できないと試算されています。

これでは目標値である22~24%に対するつじつまが合わなくなります。不足分を補う方法は、

  1. 新規で原発を増設する
  2. 既存の原発をリプレースする
  3. 特例として認められる運転期間の延長(60年)をする

の三択ですが、政府は「可能な限り原発依存を低減させる」という方針も立てているため、「1」と「2」については明確な方針を示していません。

そのため、ずるずると特例で申請をするのでしょうが、これに対する世論の風当たりは強くなることが避けられません。

使用済み核燃料の問題

原発で発生する「使用済み核燃料」についても大きなハードルが立ちふさがります。

2019年7月現在では、貯蔵容量の75%に相当する1万8千トンの使用済み燃料が保管されています。

新たな受け入れ先も決まらず、長期保存に関する方針も決まらないままでは、厳しいと言わざるを得ないでしょう。

ビジネスとして採算が合わない

福嶋事故以降、原発ビジネスは

  • 安全面のコストが上昇
  • 再エネとの競争環境の激化

という採算上の問題に直面し、海外での事業展開も頓挫しています。

https://nakanishidaisuke.com/2020/10/genpatsu/

再エネ

化石燃料・原子力が長期的には縮小していくと考えられます。

そうなったとき、受け皿としての再エネの役割に注目が集まりますが、まだまだ多くの課題を抱えているのが実体です。

再エネが抱える課題を分かりやすく紹介

政府は再エネの促進に向けて海洋ルールの見直しを行っていますが、まだまだ政治的な勢いが弱く、目標設定も低すぎるのではないか、と内外から言われています。

これを受けて、梶山経済大臣は、

「民間企業の予見可能性を高めることが重要だ」と指摘し、政府が投資環境を整備することで民間参入を促す方針を明らかにした。

としています。具体的には

  • 30年までに原発10基分にあたる1000万キロワットの洋上風力の容量を確保
  • 高性能な蓄電池や新型太陽光パネルなどの技術開発を予算措置

と述べています。

まとめ

原子力の撤退、化石燃料からの転換、という大きな世界の動きの中で、

再エネの普及は長期的なトレンドとして定着しそうな見込みです。

あとは「取り組む本気度」の問題ではないでしょうか。

政治家が野心的な数値目標を示すのを待つだけでなく、

環境活動を中心とする「民間の動き」も求められてくるのではないでしょうか。

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