平成の大合併
緊縮財政を旗印に、平成の大合併が行われました。
私が住む五島市もこの流れに乗り、H16年に合併を行いました。
ところが、五島の各地を回ってみると、郡部の方からは、
合併しない方が良かった・・・
という声を少なからず耳にします。
そこで本日は、全国的な大合併の振り返りと、その後の分析の紹介です。
大合併の総括
全国町村会が発行している、こちらのファイル(「平成の合併」をめぐる実態と評価)が大変参考になりました。
http://www.zck.or.jp/teigen/gappei-ma.pdf
PDFで109ページにも及ぶ大作ですが、とても読みごたえがありました。
平成の大合併を巡る背景や自治体の葛藤、そして合併を終えてどのような結果となったのか、インタビューに基づく精緻な分析がされていました。
まずは合併の背景から。
合併の背景
1.財政問題
以下、抜粋です。
今回ヒアリング調査を行ったほとんどの市町村が合併の理由として第一にあげたのが、財政問題だった。そして、財政問題の主因は、
①公債費の増加
②地方交付税の削減
③交付税額の見通し
の不透明さであった。
それに加えて、
特に小規模市町村(その多くは町村)は、段階補正の見直し
- 第1段階:平成 10年度~:人口 4,000人以下町村が対象
- 第2段階:平成 14年度~:人口 5万人以下市町村が対象
に加えて、平成 16年度の地方交付税・臨時財政対策債の大幅削減(いわゆる「地財ショック )というダブルパンチを受け、財政危機に直面した。 」
また、予告なしに突然市町村を襲った「地財ショック」は、市町村に対し、交付税額の見通しの不透明さを強く印象づけることとなった。
その上で、
地方交付税に財源の多くを依存する財政力指数の低い市町村にとって、交付税額の見通しがつかないことは、財政の将来予測性の喪失を意味する。
一方、合併した市町村に対しては、財源の将来的な確保を謳った措置がとられた。それが、合併算定替措置であり、合併特例債制度だった。
このように、財政措置に伴う「アメとムチ」により、特に自主財源に乏しい小規模市町村は合併推進を余儀なくされた。
と述べられています。
2、府県の強力な指導
以下、抜粋です。
今回の調査において、国や府県の指導を合併理由にあげた市町村が少なくなかった。
なかには、府県が半ば強制に近い形で合併を指導したという声もあがるなど 市町村による 自主合併 とは言い難い 強引な手法も見受けられた 。
五島市を含む長崎県は、平成の大合併により79市町村が21市町に再編され、全国一合併が進んだ県となっています。
ちなみに、合併後の五島市の初代市長に就任した中尾郁子氏の父親は、元長崎県知事です。
そうした中で、長崎県で合併を選ばなかった小値賀町は、全国的にも注目されるほど、勢いがあります。
合併の効果と弊害
プラス面
市町村合併は、地域に一定のプラスの効果として
- 職員数削減、重複投資の解消による財政支出の削減
- 市町村規模拡大による行財政基盤強化を活かした地域再生への取り組み
としたうえで、
しかしながら、これらを単純に合併の効果としてのみ捉えるのは性急である。
としています。
マイナス面
以下、抜粋です。
合併によるマイナスの効果の多くは 「合併すれば問題が解決する」という、 いわば「寄らば大樹の陰」的な発想に起因するものと考えられる。
こうした発想は、住民や行政担当者の地域に対する「愛着 、それに伴う「責任感」を揺るが すこととなった。」
また、合併によって「周辺部」に位置づけられることとなった農山村が衰退しつつある事実も明らかとなった。
具体的には、以下の5点が指摘されています。
-
行政と住民相互の連帯の弱まり
-
財政計画との乖離
-
財政規律の低下
-
周辺部となった農山村の衰退
-
過大な面積をもつ市町
五島市に関しては、旧福江市の一極集中が進み、(1)と(4)が進行した印象です。
まとめ
参考文献には、他にも様々な現場の声と葛藤が紹介されています。
五島の各地をヒアリング活動して得た私の印象として、旧5町では
- 平成の大合併により「行政と住民の距離感」が拡大し
- 地域における行政の存在感が希薄化することにより
- これまで培ってきた行政と住民相互の連帯が弱まり
- 住民の地域づくり活動に支障をきたし
- 高齢化と人口減少による諦観が集落に蔓延している
気がします。これからの地域づくりでは、
「小さい単位で当事者を増やす」
事が大切ですので、今の五島の状況は、致命的だと感じます。
一言で言えば、「政治は遠くへ行ってしまった」感じになっています。
離島は本土に比べると不便ですが、同じ不便でも、
自分たちが決断して受け入れた「不便さ」
と、
勝手に決められて一方的にもたらされた「不便さ」
では、心理的に与える影響は大きく異なります。
例えば、全国的に注目されている海士町や小値賀町は、小さな行政単位で島民が危機意識をもって活動をしている印象でした。
選挙の投票率を見れば、人口が1万人以下の自治体の方が、有権者の関心は高くなり、政治との距離も近く感じる事が分かります。
今後は、参考文献にも紹介されていますが、「地域自治組織」という単位を形成するのも、方法のひとつかもしれません。総務省の方でも継続的に検討をしているようです。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/chiikijichi/index.html
これは一つのアイデアですが、
もう一度旧5町に分割した方が、全体的に住民の満足度が高い暮らしが実現するのではないでしょうか?
正解のない時代ですので、テクノロジーの活用という観点も加えながら、最適な在り方を検討する必要があるでしょう。