上場先が見つからない
3月22日の日経新聞にこんな記事が。詳細はこちら。
要約すると、
サウジの国営企業(サウジアラムコ)を民営化し、株をアメリカの証券取引所に上場させたいけど、法的・経済的なリスクもあるから難航している。
という感じです。
で、なぜこのニュースが大きいかというと、
アラムコが世界最大の石油会社であり、時価総額は2兆ドルを超えると言われているからです。そのため、実現すれば世界の民営化史上、最大の案件となります。
エネルギー業界だけでなく、世界の株式市場にとってのビッグニュースです。
今回は時価総額の5%を上場する予定ですが、それだけでも1000億ドルの上場益が得られます。
そもそもなんで民営化?
この理由は端的にいうと、
- 政府だけで石油企業を運営するのは厳しい!
- 株式上場で資金を得て、別の分野に投資せねば!
という焦りがあると見られます。
その背景には、サウジを巡って
- 人口の増加
- 原油依存度の高さ
- 石油価格が下落するトレンド
があるからかです。人口について、日本エネルギー経済研究所の推計によると、
- 2013 年:約 3000 万人
- 2030 年まで:3500 万~ 4000 万程度まで増加
すると見られています。この流れは多くのアジア・アフリカの国々と同様ですが、それよりも深刻なのが、「2」と「3」です。
サウジの原油依存と社会福祉
サウジアラビアは国家収入の90%を原油と原油関連製品で賄っています。
そして日本にとっても、サウジは原油輸入量のうち3割近くを占める最大の原油調達先となっています。
今から10年以上前(2007年)は、原油価格が高かったので、国が大いに潤っていたみたいです(参考記事はこちら)。例えば
・大学までの教育費、医療費、社会福祉費が無料。
・住宅も無償提供。
・国立大学や職業訓練場では毎月小づかいが出る。
・電気代、ガス代も補助金が国から出る。
(今もこんな状態なのでしょうか??裏山ですね)
一方で、「資源の呪い」として、国のサービスは充実するものの、資源以外に外貨を得る手段を持たない危険な状態となってしまいました。若者も勤労意欲なくしちゃいますよね。
石油価格の下落トレンド
従来通りに「供給元」が増えなければ話は別ですが、シェールガス革命によって新しい供給元が増えてしまいました。
当然、そうなるとエネルギーの供給が増えるので、価格の下落が起こります。
必然的に、今までの水準で社会福祉を維持するのが困難になります。
2014年12月末時点では、サウジは過去の苦い経験(非OPEC増産によるシェアの低下)から、減産はしない方針でした。
減産しなかった理由は、あえて価格競争に持ち込んで、シェールガス企業を市場から撤退させる思惑もあったみたいです。
ところがその後も原油価格は下落を続け、2015年末にはサウジがシェール企業に根負けし、減産を表明しています。(参考はこちら)
シェール革命以外の要因としては、
- イランの経済制裁緩和による増産の強化
が挙げられます。イランも「供給側」にまわると、益々原油の価格下落に拍車がかかります。
根本対策でエネルギーシフト
サウジが置かれている状況をざっくりまとめると、
- エネルギー供給先が増える(シェール・イラン)
- 原油価格の下落が見込まれる
- 社会福祉を維持するのは困難になりそう
- だから国有企業を民営化し
- 売却益を基に新しい産業の育成を目指す
という感じです。
本日のニュースでは、「売却益」を得るための「株式上場先」が見つからず、サウジは困っている様子が紹介されています。
今までの流れでは、
- サウジ:「どこかいい条件のところないかなー??」
- 各国:「ぜひとも、うちに来てください!」
っていう感じの「売り手市場」(=サウジが主導権)でしたが、2030年にサウジが掲げた計画を達成するためには、早く資金調達の目処をつけなければなりません。
そのため、時間が過ぎるにつれて、
- サウジ:「頼むから上場させてください!」
- 各国:「うーん。どうしよかなー?」
っていう「買い手市場」(=取引所を持つ国が主導権)にシフトしていくのではないでしょうか?
それくらい、サウジの置かれている状況はのっぴきならいと考えられます。