競う事・競わない事
この本を読みました。
本日はその感想の紹介です。
本書ではタイトルの通り、「間違った競争をしないこと」を推奨しています。その具体例として、本日は
- 雇用の促進
- 観光の促進
を例に考えてみます。
シングルキャリアと雇用の促進
地方ではよく、
- 少子化&人口減少している
- 原因は、「働く場所」がないことだ
- 「雇用の場」を創出するのが大事だ
という発想のもと、様々な政策や補助金が使われています。
五島では「雇用拡充支援事業」がその典型例です。
ところが、「シングルキャリア」を前提とした雇用の促進では、圧倒的に都市部に分があります。
私も先日、福岡を訪れて感じたのですが、そこは言わば、「職場のジャングル」です。様々な働く場所があり、賃金の水準も地方より高く設定されています。
五島では高校を卒業すると、8割以上が島外に転出します。
賃金が高く、消費を含む娯楽が多く、多様な人・職種と接する機会が多いため、都会を目指すのも無理はありません。
つまり、地方自治体が掲げる「雇用の促進」は、競争相手が福岡や東京圏といった都市部になります。
これは地方の商店街が、大型のスーパーを相手に、安売りセールで競争するのと同じです。
地方は、シングルキャリアを前提とした「雇用の促進」という政策で、そもそも都会との競争に勝てない構図であると言えます。
パラレルキャリアを前提に
地方では、定住の前提ではなく、
週末だけのトライアル移住
というような形で、「都会とは違った」部分での戦略が求められます。
2019年の5月~行われた「リモートワークの実証実験」は、その先駆けであると言えるでしょう。
参考記事
https://note.mu/bijp/m/m42dfa89b4547
定住人口に拘ると、どうしても「シングルキャリア」を前提とした政策目標になりがちです。
戸籍上の移住者が増える事よりも、関係人口が増える事の方が、実質的には大切です。
観光政策
雇用政策だけではなく、観光政策についても同じことが言えます。私が沖縄に行って感じたのは、
- 五島は沖縄に負けている(観光客数・観光消費額の面で)
- 五島は沖縄に勝てる構図ではない(政治的なパワーの面で)
という事です。五島市では、観光客数の年間目標26万人を設定していますが、沖縄からすれば屁みたいな数字です。
それに、沖縄を例に取れば、
観光政策の成功は、市民の生活水準向上に寄与しない
ことがわかります。
https://nakanishidaisuke.com/2019/06/20/okinawa-society/
「競わない」方針として
以上のように、雇用政策・観光政策で、五島は大きな資本や政治的なバックを持つ大都市・沖縄に勝てない構図です。
五島のような地方は、まずその部分を認識し、本書の言葉を借りれば、
- 役所は大企業(型の)の経営者戦略をやめるべき
- 弱者は他人の成功事例を真似したら失敗する
事を自覚すべきです。小さくて小回りの利くという部分を活かした目標設定、実行体制の構築が求められます。
さらに本書の中での印象的な言葉としては
- 時間をかけて作成した計画書ほど、実行段階で多くのズレが生じるが、修正したくなくなる
- 重要なのは計画を立てる速さと、計画立案後にメインテインを続ける実行力
- 事業の成否を分けるのは、実行段階での定期的なメンテナンスの積み重ね
という部分です。
経営の視点で考えれば、基本中の基本として、以下の3Cが欠かせません。
- Customer:顧客=市民
- Company:自社=五島市
- Competitor:競合=その他の市町村
五島市の戦略を見ていると、「自社=五島市のイメージ)と「顧客=市民の年齢構成」を基にした構成になっているように感じます。
勝ち目のない分野で競争を続けている五島市を見ていると、
競合の視点が欠けているのでは?
と感じます。
これからの地方自治体の首長に求められるのは、
全国1700以上ある市町村の中で、どの分野で競争をするのか?
という、マーケティングを基にした戦略性です。